2014年02月16日

『竜との舞踏』 (氷と炎の歌 5) ジョージ・R.R. マーティン著


『竜との舞踏』 (全3巻) (氷と炎の歌 5)
ジョージ・R.R. マーティン (著), , 酒井 昭伸 (翻訳) 早川書房






現代最高のファンタジーシリーズとも称される「氷と炎の歌」シリーズ最新刊!
前作『乱鴉の饗宴』が期待したほどおもしろくなかったので若干の不安とともに読み始めたのだが・・・

うーん、今度もちょっと、完全復調とはいえないかな。
前作よりはおもしろいところもあったけど、夢中になるほどにはいかなかった。

一番好きな人物のティリオンが出てくれたのは良かった。
あと、どうなったか気になってたあの若造が戻ってきたのもうれしかった。まだ活躍してくれそう。
とはいえ、今回は準備段階という感じ。

だいたいこのシリーズは盛り上がる部分はほんとにすごいのだけど、記述がやたら細かくて、ここは省略してくれてもいいのになあと我慢しながら読む部分も長いのだ。
しかし2巻にわたり大きな盛り上がりのないまま進行するとは思わなかった。
もともとの計画では第三巻『剣嵐の大地』の後、数年後の話に跳ぶことになっていたらしいし、このあたりは本来は跳ばされる部分だったのかもしれない。再構成に苦労しているようだ。

今後への期待につながるような我慢ならまだ良いけど、大物はどんどん退場するし、おもしろくなる要素がだんだん減っている気がする。

今回は壁や狭い海の向こうの話が中心になっているのも私には残念なところ。
ウェスタロスに比べ、考え抜かれて書かれてる感じがしないんだが。
特に大陸の描写はどうもオリエンタリズムというか、植民地を見るヨーロッパ人の視点を感じてしまうんだよな。キップリングのインドものとか。
ウェスタロスがイギリスをモデルにしているわけだからそれでいいのかもしれないけど。

いずれにしても、ここまでくれば最後まで当然つきあうつもり。
次は大きな戦争も始まりそうだし、あのデカいのがどう登場するのかとか、いろいろ楽しみ。

でも、このペースで後二巻で完結するんだろうか。
一巻が膨大なページ数になるのかな。



ドラマ「ゲーム・オブ・スローンズ 」も大好評。
わたしはイメージが固定されると嫌なのであとでまとめてみようと思ってるんだが、果たして我慢できるか。
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2014年01月05日

『ブラックライダー』 東山彰良/著



『ブラックライダー』
東山彰良/著 新潮社

SF評論家の大森望さんが絶賛していたので読んでみた。
確かにおもしろかった。

6.16と呼ばれる大破壊の後、寒冷化して食糧不足に陥った未来の地球。
人の遺伝子を埋め込んだ牛が家畜として飼育されているが、人が人を食う習慣も残っている。
アメリカ西部劇の形を借りた、黙示録的な愛と暴力の物語。

第一部は正直いまいちだったけど、第二部のメキシコに救世主が出現するあたりからぐっと密度が濃くなる。
ラテンアメリカ文学の家族史ものを読んでいるかのような濃厚な物語。
余韻を引くラストまで一気に読んだ。

東山氏によるとコーマック・マッカーシー『ザ・ロード』に触発されたそうだ。

放射能との向き合い方とか、ああ、そういう価値の転換が必要な世界が来ているのかも、と現代に突きつけてくるところもあった。
三島由紀夫の「美しい星」っぽいのかな? 読んでないけど。

6.16と呼ばれる破滅が何を指すのかははっきり示されないが、きっとヨハネ黙示録の章番号を指しているに違いない、と思って前後を見てみると、

6:12小羊が第六の封印を解いた時、わたしが見ていると、大地震が起って、太陽は毛織の荒布のように黒くなり、月は全面、血のようになり、 6:13天の星は、いちじくのまだ青い実が大風に揺られて振り落されるように、地に落ちた。 6:14天は巻物が巻かれるように消えていき、すべての山と島とはその場所から移されてしまった。 6:15地の王たち、高官、千卒長、富める者、勇者、奴隷、自由人らはみな、ほら穴や山の岩かげに、身をかくした。 6:16そして、山と岩とにむかって言った、「さあ、われわれをおおって、御座にいますかたの御顔と小羊の怒りとから、かくまってくれ。 6:17御怒りの大いなる日が、すでにきたのだ。だれが、その前に立つことができようか」。

うーん、6章ってのはあってそうだけど、16節は中途半端かな。


『ザ・ロード』 コーマック・マッカーシー 著


『悪の法則』 コーマック・マッカーシー 著
映画版もよかったけど、せりふを味わうならこの脚本を読もう。

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2013年09月29日

『リビジョン』 法条 遥 著




法条遙の『リライト』はタイムリープものの傑作で、サスペンスフルな展開と衝撃の結末に本当に驚かされた。
その『リライト』にまさかの続編『リビジョン』が出た。4部作の予定だとか。

リライトの感想

未来予知の能力をもつ千秋霞。生後2週間の息子ヤスヒコが原因不明の病気にかかり、命が危なくなる。
予知能力を駆使して息子を何とか救おうとする千秋。だが、時間の糸はもつれにもつれ・・・というお話。

今回はちょっとどうかなあ。この理屈はいくらなんでも通らないんじゃないか。
ルール設定にどうも納得できなくて、物語に入り込めなかった。
実は伏線かもしれないので最終巻まで読まないと判断は下せないけど、今の段階では、やや失敗作かな、と感じた。

はたして今後修復できるのか。才能ある人だと思うので期待したい。
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2013年02月10日

〈氷と炎の歌〉第4部『乱鴉の饗宴』 ジョージ R R マーティン著


海外ドラマ「ゲーム・オブ・スローンズ」がついに放映開始!
http://www.star-ch.jp/gameofthrones/

スターチャンネルだから我が家では見られないんだけど、無料放送の1,2回目を見た。
これはかなり期待できそう。テレビでここまで重厚なファンタジーを作れるのか(と今さら驚くことではないが)。
スター・チャンネルに加盟している方には私の分まで楽しんでいただきたい。

ただ戦闘場面はどこまで描けるのかな。同じHBO制作のドラマだと歴史物の「ROME」がすごくおもしろかったけど、合戦シーンはちょっとごまかしてた。
あと気になったのは、少年少女たちが概して年齢より年上に見えること。性的なシーンも多いからあまり低年齢の俳優にはやらせられなかったのかな。
でも不満を感じるほどのイメージの齟齬は無かった。ティリオンが意外と男前で、小さいこと以外は小鬼(インプ)っぽくないのがちょっとだけ残念。


登場人物名・用語を酒井昭伸氏の訳語に統一した改訂新版『七王国の玉座』(全2巻)
5分冊にしなくてもちゃんと納まるんじゃないか。表紙絵はもっと重厚なものにしてほしかったけど、ハヤカワ文庫でマンガ絵でなかっただけでもましと思うべきか。

ジョージ R R マーティンによる原作小説《氷と炎の歌》は現在進行形のファンタジーシリーズでは一番おもしろいと思う。私の知る限りでは。
ただ、物語が動き出すと怒濤の面白さなんだけど、そこに至るまでが結構長い。
食べ物の種類やら紋章の図柄やら、そんな描写が必要なのか、と思うほど細々と書き込まれている。異世界を隅々まで書き尽くそうとする意図なのかとも思うけど、単にアメリカの最近のベストセラーの悪癖を踏襲してるだけのような気もする。人の名前をやっと覚えたと思ったらあっけなく死んでしまうこともしばしばだ。
ドラマだとその辺一目瞭然で表現できるから、娯楽抜粋版のような感じになるかもしれない。
あと、私の望まざる方向に物語りが向かってるように見えるのはちょっと気がかりだ。壁の北側の話っていまひとつ興味もてないんだよな。七王国の権謀術数は実に緻密でリアルでめちゃくちゃ面白いんだけど、野生人とか偉業人の話ってなんか別の小説みたいだ。なにかSF的な大仕掛けでもあるのかな。

5巻目『A Dance with Dragons』の翻訳はこの夏に刊行予定。

ハヤカワ・オンラインの《氷と炎の歌》サイト
http://www.hayakawa-online.co.jp/SOIAF/index.html

原作の感想をこのブログに載せていたような気がしてたけど、載せてなかった。第4部『乱鴉の饗宴』の感想を書きかけたけど途中でやめちゃったんだった。
せっかくだから書きかけの感想を以下にそのまま載せる。もう記憶が薄れてしまっているので今更書き加えられない。
ネタバレ気味かも。


第4部『乱鴉の饗宴』の感想
「氷と炎の歌」、現在のところ最新作。今もっとも楽しみにしてるシリーズなんだけど、うーん、今回はそんなに面白くなかった。期待が最高に高まってたからなあ。
一番好きな登場人物(ティリオン)が出てこないのが寂しかった。次巻に持ち越しだそうな。
サーセイの陰謀劇は面白いけど、読んでてあまり楽しくないなあ。
ブリエンヌ改めブライエニーは好きだけど、探索の旅が延々と続くんでちょっと退屈。「道中いろいろあった」ですませちゃだめなのかなあと思わないでもなかった。
もちろんマーティンのことだから、あとであっと驚くような巧妙な伏線が張られてたりするんじゃないかと思うけど。
ドーンの話が一番面白かった。
でも、章ごとに特定の視点人物を通して物語を語るっていう手法が今回は崩れてて、一度かぎりの視点人物が何人もいた。これだけスケールが大きくなるとやむを得ないとは思うけど、当初の構想が破綻してきているって兆候じゃないといいがなあ。

リトル・フィンガーが言う三人のクイーンて誰のことだろう。サンサ、マージェリー、ミアセラかな。デナーリスやアシャの動きまではさすがに操れないと思うけど。
サンサの結婚話は、この時点で計画が明かされるってことは実現しないんじゃないかな、小説テクニック上のことだけど。
ロバート公がなかなかがんばってるので、彼がリトル・フィンガーの野望の意外な障害になるかも。まあ、あっけなく死んじゃう可能性もたかそうだが。
サーセイの予言に出てくるヴァロンクァーって、弟って意味だそうだけど、この言葉だけヴァリリア語なのはなんでだろう。ほかに意味があるんじゃないかな。ティリオンと思わせて実はジェイミー、と思わせて実は……なんだろう。まあ、どう予想しようが、それ以上の驚きを用意してくれるだろう。
訳者がこの巻から交代してる。人名や組織名等が大幅に変わってて驚いた。変えるのはいいけど、新旧対照表とかつけてほしかった。
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2012年12月01日

『屍者の帝国』 伊藤 計劃 , 円城 塔 (著)

屍者の帝国
伊藤 計劃 , 円城 塔 (著)
河出書房新社



話題のSFを読んでみた。とてもおもしろかった。

河出書房新社のページ
http://www.kawade.co.jp/empire/

お話
フランケンシュタイン博士による死者再生技術が一般化され、多くの死体が兵士や労働者として使役させられている世界。
1878年、医学生のジョン・ワトソンは、ヴァン・ヘルシングら英国情報部の誘いを受け、アフガニスタンへ派遣される。死者を率いて王国を築こうとしている男を探るために・・・。

ワトソンを始め、架空の、または実在の有名人が多数登場、
『ドラキュラ紀元』とかアラン・ムーアの『リーグ・オブ・エクストラオーディナリー・ジェントルメン』とか思い出した。『リーグ・オブ・・・』には「M」も出てくるし。


登場人物や用語については妄想科學倶楽部で説明をしてくれている。とても重宝した。
http://docseri.hatenablog.jp/entry/2012/08/27/011725

ネタバレになるから誰が登場するかはあまり書かない方がいいか。
でも第一部の早い時期に出てくるからカラマーゾフについては書いてもいいよね。
死者を率いる男の名前がアレクセイ・カラマーゾフ、って出てきたときは、おお!と興奮した。
『カラマーゾフの兄弟』の描かれざる13年後の続編でもあるわけだな。
正直いうと、カラマーゾフに関しては思い入れが深い分、不満もあったが。まあテーマも違うし仕方ない。
クラソートキンがジューチカを甦らせる場面があるんじゃないかと期待したけど、それはなかった。
動物の屍者化は実現できていないとのことだ。
(この前ジューチカについて書いた。http://dokushoburogu.seesaa.net/article/280862242.html

アレクセイの師、ニコライ・フョードロフについては評伝フョードロフ伝も出ているようだけど、読むの大変そうだな。
私は亀山郁夫著『カラマーゾフの兄弟』続編を空想する (光文社新書)で知ったんだったかな。ドストエフスキーにも大きな影響を与えたそうだ。
ブログに感想書いた本だと『アレクサンドルII世暗殺』エドワード・ラジンスキー著が関係ありそうだな。 http://dokushoburogu.seesaa.net/article/115285239.html

あと、第一部には『闇の奥』とかキプリングの『王になろうとした男』も重ねられてるんじゃないかと思った。

ちょっと残念だったのは文体かな。ラノベ的、といったらいいすぎだけど、なんか今風で、ワトソンが書いたとは思えなかった。まあワトソンが書いたわけではないからいいのか。

ラベル:屍者の帝国
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2012年09月29日

『ブック・オブ・エイリアン』ポール・スキャンロン , マイケル・グロス 著


『ブック・オブ・エイリアン』 (ShoPro books)
ポール・スキャンロン , マイケル・グロス 著


『プロメテウス』を見るために、久々に『エイリアン』を見直した。
やっぱりすごいなあ。ぜんぜん古びてない。
このころのリドリー・スコットにもっとSF映画を撮ってもらいたかった。
それこそホドロフスキーのデューンを引き継ぐとか。
本人が関心なかったならしかたないけど。

『プロメテウス』と比べて、やっぱり隠してはっきり見せないことで、観客の想像力を刺激してくれるのがいいんだろうな。
はっきりくっきり見せたくれても映画が面白くなるわけじゃない。
(いや『プロメテウス』はむしろ好きなんだけど、第三の傑作にはならなかった。続編に期待しよう)

最終段階のビッグ・エイリアンは意外と「ラバースーツを着た人間」みたいだったな。もっと非人間的だったような気がしてたけど。
ちなみにスーツの中身は身長2.18メートルのマサイ人留学生だとか。

という裏話が、この『ブック・オブ・エイリアン』に書かれていた。映画『エイリアン』のメイキング本だ。
ロン・コッブ、クリス・フォス、メビウス、H.R.ギーガーらの絵がふんだんに見られる。
メビウスは数日しか参加しなかったとのことで、ほんの数枚だけ。
リドリー・スコット監督によるストーリー・ボードも少し掲載。
『ブレードランナー』のストーリー・ボードをちょっとみたことあるけど、そちらはメビウスそっくりの絵で驚いた。エイリアンの頃はまだ影響を受けてないようだ。

やっぱりギーガーの参加が決定的だったな。
三Dでギーガーの世界を見てみたい。
『プロメテウス』だってギーガーのデザインが元になってるはずだけど、どうして何も感じなかったんだろう。

オバノンもメビウスも今は亡く・・・。
寂しい。

ダン・オバノン原作、メビウス画の『LongTomorrow』を訳してほしいな。
でも一番見たいのは、メビウスがホドロフスキーの「デューン」のために書いたストーリーボードかな。三千ページにもなるそうだ。

メビウスによるデューン
http://www.duneinfo.com/unseen/moebius/

ギーガーのオフィシャルサイト
http://www.hrgiger.com/
聞いた話だと、ギーガーはリンチ版の『デューン』にも協力を申し出たが無視されたそうだ。
リンチは『イレイザー・ヘッド』の赤ちゃんを『エイリアン』でまねされたと思って怒っていたらしい。


『エイリアン』DVD
リドリー・スコット監督によるオーディオ・コメンタリーがついてて、裏話や演出意図とか語ってる。
胚種の中でうごめいているフェイス・ハガーはゴム手袋をしたスコット監督の手だとか。
コールドスリープから醒めるシーンはリアルさを求めて全裸でも撮ったが、採用されなかったとか。
フェイス・ハガーの内蔵は牡蠣で出来ているとか。
エイリアンは実は生物兵器で、スペース・ジョッキーが運搬中に事故があったのだろう、とかいう『プロメテウス』につながる解釈も。


『エイリアン・コンプリートブック』イアン・ネイサン 著
 未読。こっちの方が充実してるのかな? 高いので迷ってるんだけど。


『プロメテウス アート・オブ・フィルム』マーク・サリスバリー 著
『プロメテウス』のメイキング本。未読。

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2012年09月18日

『リライト』 法条 遥 著



リライト (ハヤカワSFシリーズ Jコレクション)
法条 遥 (著)


ミステリチャンネルでSF評論家の大森望さんが、○○○○の傑作、と推薦していたので読んだ。
驚くべき展開のタイムスリップSFだ。

1992年の夏、中学2年生の美雪のクラスに美少年の転校生がやってきた。ラベンダーの香りとともに現れた彼、園田保彦は、未来からの時間旅行者だった。
保彦は美雪にだけ正体を明かし、ある調査への協力を依頼する。美雪は保彦とかけがえのない数日間をともにすごす。初恋とファーストキス。
だが、未来への帰還直前、保彦は校舎崩壊事故に巻き込まれてしまう。
美雪はとっさに彼の薬を使って10年後の世界にタイムリープし、携帯電話を持ち帰る。それを使って彼が埋まっている場所を見つけ、救出に成功する・・・。
10年後の夏、若手小説家となっている美雪は、実家のベランダに携帯電話を置き、準備万端整えて待っていた。中学生の自分がその携帯電話を受け取りにくるのを。
だが、いくら待っても10年前の自分は現れない。なぜ? これでは保彦を救けられない・・・。
その日から、美雪の身に奇妙な出来事が起こり始める。記憶が、過去が書き換えられている?


というお話。
内容についてはこれ以上触れない方がいいと思うけど、SFミステリとして大変巧みに出来ている。すごく面白い。
強烈な謎に引っ張られて最後まで一気に読んだ・・・かと言うと実はそうではなく、
え、これどういうこと? え、なんでそうなるの?
と驚くことが多くて、そのつど前の方のページ読み直したり考え込んだりしてたので、読み終わるのに結構時間がかかった。
最後まで翻弄されっぱなしだった。

そうとうすれっからしのSF読みでもこれには驚くのではないかと思う。
私はそんなすれっからしでもないけど、大森さんが「まだこんな手があったのか」というくらいだから。


ネタバレの感想。

堪能したので、ケチつける気はないけど、疑問点をちょっと書いておこう。
この手の小説の場合、それも楽しみの一つだと思うので・・・。

あの携帯電話は誰が買ったんだろう。10年前から大切に保存していた携帯を、10年前に持って帰り、それをまた10年間保存して・・・。リライトが起こらなければ、それが永遠に繰り返されるってこと? 何年ものの携帯なんだろう。そもそもの計画からしてパラドックス含みな気がする。

40人全員の体験が終わってから未来に帰ろうとしていたようだけど、別に最後まで待たなくてもよかったんじゃないかな。小説を書きそうな子から順に体験させ、その都度、未来に帰れるかどうか試してみればよかったのでは?
うっかり未来に帰れてしまい、自分の存在が消えたり、1992年の記憶を失ったりする可能性を恐れたのだろうか。でも「その人」に当たらない限りは最初のときと条件は同じはずだよなあ。当たりなら帰れるし、外れなら帰れないってだけじゃないのかな。

40人全員に同じ体験をさせると言うことだけど、お祭りや旧校舎はともかく、雨宮さんの蔵や家で同時体験は無理だよね。
長谷川さんとのデートの時、美雪は別行動だったのだから、日にちや時間をずらして40回繰り返したってことか。それだと雨宮家の人々の記憶を40回も操作しなければならず、脳への影響が心配されるが・・・ああ、それは図書館司書や書店員も同じことなのか。美雪だってあの場に40回も来てるってことだよね。自分の回の時はどうだったんだろう? 一人二役する人にはなれないだろうし。
ときに雨宮家は40人分ものスイカを供出させられて大丈夫だったのかな。いや保彦の分もいるから80人分か。茂くんが補充に買いにいかされたのだろうか。

雨宮友恵の脅しはなんで効いたのだろう。普通に、記憶を操作して薬を取り戻すってわけにはいかなかったのかな。いや、そのときは美雪が雨宮の部屋で小説を読んでしまっていたのだから、パラドックスはもう生じていたのか。
このあたり考え出すと訳が分からなくなる。この辺でやめておこう。


なお、大森望さんは「イヤミス」として本作を紹介していた。
私は最初から身構えて読んだせいかそんな嫌ではなかったけど、確かに容赦ない話だ。
甘酸っぱいタイムトラベル・ロマンスのつもりで読み始めていたらもっとショックだったろう。
(わたしが一番嫌だったのは表紙絵がマンガ絵だったこと。)

イヤミスとかバカミスとか、なんか嫌な言葉だな。レッテル貼るにしてももっといい言葉がありそうなもんだけど。

ラベル:リライト 法条遥
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2012年08月15日

『七夜物語』 川上弘美 著



『七夜物語』(上下巻) 川上弘美 著 朝日新聞社

作者の川上弘美さんは、子どもの頃から「ナルニア国物語」「メアリー・ポピンズ」「ツバメ号とアマゾン号」などの児童文学・ファンタジーに親しんでいました。おとなになっても卒業せず、今でも毎年読み返すのだそうです(BS11「宮崎美子のすずらん本屋堂」のインタビューより)。
そんな川上さんが満を持して挑んだ本格長編ファンタジーです。

お話(帯より)
小学校四年生のさよは、母さんと二人暮らし。ある日、図書館で出会った『七夜物語』というふしぎな本にみちびかれ、同級生の仄田くんと夜の世界へ迷いこんでゆく。
大ねずみのグリクレル、甘い眠り、若かりし父母、ミエル……七つの夜をくぐりぬける二人の冒険の行く先は?


設定はエンデの『はてしない物語』にも似てますね。雰囲気はだいぶ違いますが。
意外に教訓色の強いお話でしたが、川上さんらしい、やわらかい肌合いの、懐かしいような寂しいような冒険物語です。深く心に染みいります。
とくに前半がおもしろかったです。「夜の世界」がいったい何なのか全く分からないまま、どんな世界が広がっていくのかわくわくしながら読みました。

主人公の二人がとてもけなげで、
「さよちゃんがんばって」
「仄田くんがんばって」
と応援せずにはいられません。
もっとも、他人事のように応援するだけではいけないようなのですが。

世界設定や物語のおもしろさ(どんでん返しとかそういう意味での)で読ませるタイプの小説ではないので、最近のサービスたっぷりのファンタジーに慣れてしまった者としてちょっと物足りなさを感じないでもなかったです。
しかし、さよと仄田くんの心に寄り添いながら、その寂しさや哀しさ、思いやりや勇気が丁寧に描かれていくので、二人と一緒に旅を続けるような気持ちで最後まで楽しく読みました。

全体に楽しい物語ですが、ふたりが受ける試練はかなり厳しいものです。見たくもない自分の心の奥を見せられてしまったりもします。
とくに仄田くんの試練は私にとってもかなりきついものでした。それだけに、弱くて情けない子なりに勇気を奮い起こし、困難に立ち向かう様は感動的です。
わたしも仄田くんのように成長できればいいのですが。

冒険をとおして二人が成長していくさまは気持ちいいものですが、成長する前の子どもたちだってやっぱり魅力的です。
成長にともない失われてしまうものへの愛惜もよく描かれていると思います。
小学四年生という年齢は、子ども時代の終わり頃、といってもいいでしょう。
世界や他者と出会い、この年代にしか味わえないような心の震えを味わいます。
さよちゃんがみつけた『七夜物語』は決して内容を憶えておけない不思議な本ですが、同じように、あんなにも心を捉えた日々が、忘れられてしまうのはなんとも寂しいことです。でも、たとえ思い出せなくても、その経験は心の奥にきっと残っているのでしょう。
子ども向けの本が多くの大人をも引きつけるのは、本をとおしてあのかけがえのない日々を、もう一度取り戻せるような気がするからかもしれません。

エンデのように論理的に組み立てられてはおらず、多くの謎があいまいなまま残されます。
わかったことにして終わりにするのではなく、読む人が考え続けるべき問題なのでしょう。

酒井駒子さんの挿絵も大きな魅力の一つです。
新聞に連載されていた時、文章は読んでませんでしたが絵は楽しみにしてました。
雑誌は新聞の挿絵には魅力的なものも多いのに、書籍化の際に消えてしまうのは残念ですので、うれしい配慮です。
サイズがもっと大きければ言うこと無いのですが・・・。

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2012年05月27日

『消えた少年たち』 オーソン・スコット・カード 著



本の雑誌90年代ベスト100 第1位
http://homepage2.nifty.com/mysterybest/honbest.htm

先週読んだ。
カードは『ソングマスター』『エンダーのゲーム』がすごくおもしろかったけど、次に読んだ『奇跡の少年』が、私がアメリカ史に詳しくないせいかよくわからなくて、それ以来読んでなかった。短編はいくつか読んだか。

この『消えた少年たち』はおもしろかった。
多様な面をもった小説だけど、一言で言うと、モルモン教徒の家族小説、と呼ぶのが一番良さそうだ。

20年近く前の小説だけど、モルモン教徒のロムニー氏が共和党大統領候補確実となった今、案外タイムリーな読書だったかもしれない。
もっともモルモン教の教義や組織が詳しく説明されているわけではないので、ちゃんと知りたいなら他の本も読まないといけないけど、いったい信者はどんな人たちなのか、というざっとした好奇心には答えてくれる。

1980年代前半のアメリカ。若い夫婦と3人(後に4人)の子供たち。モルモン教徒家族の日々の暮らしがかなり詳細に描かれる。日曜ごとの教会の奉仕活動とか、父親が息子に洗礼を施す儀式とか、いろいろ興味深かった。

SF文庫に入ってるけど一向にSFにならないし、プロローグや題名から予想されるサスペンスな展開にもなかなかならないし、正直ちょっと戸惑ったのだけど、そこはSF界きっての小説巧者といわれるだけあって、退屈することはあまりない。
長男スティーヴンの学校での受難、教区や職場の困った人たち、職場でのいざこざ等、胸打たれたりはらはらしたり考えさせられたり、充実した読書を楽しめた。

折あるごとに神に立ち返って心や行動を省みるのが興味深い。
特に精神分析と信仰との軋轢とかおもしろかった。そこで無条件に信仰が優先されるというのが、当たり前なのかもしれないけど、信仰を持たない身には新鮮だった。

夫ステップの仕事はゲームデザイナーなので、1983年のゲーム事情を知ってる人ならそういう楽しみもあると思う。私は詳しくないけどなかなか興味深く読んだ。

“真相”には早い段階で薄々気づいてしまったのだけど、それでも最後は驚き、感動した。

巻末解説は女優の斉藤由貴さんと書評家の北上次郎さんの2段構え。
斉藤さんはご自身もモルモン教徒だそうで、その観点からの感想。
一方北上さんは、自分がいかに感動したか、泣いたかを述べる。
キリスト教もモルモン教も知らず、カードのSFも読んだことない人がこの本の解説書いていいのかな。
まあ北上氏の場合は「知らない」「忘れた」も芸のうちだし、嫌いじゃないけど。
でもかなり物議をかもしたというこの本の解説は、もっとわかってる人に書いてほしかった気がする。
SF界の人に書かせるとまた悪口を書かれてしまうかもしれないと思ったのかな。

アメリカにおけるモルモン教のイメージについては、私はアニメ「サウスパーク」などでうかがい知る程度だ。
最近見たサウスパークだと、モルモン教徒しか天国に行けないため天国が人手不足で、地獄との戦いで劣勢だ、というネタがあった。ちなみに、日本人には魂がないので天国にはいけないらしい。(シーズン9の「ケニーは救世主!?」)
見てるときは気づかなかったけど、ケニーがゲーム機で地獄軍と戦うというこのエピソードは『エンダーのゲーム』のパロディだったのかな。それでモルモン教が出てきたのか。
サウスパークはFOX bs238 で無料放送中! すごくおもしろい。

ところで父親ステップが「イエスさまはおっしゃった、もしだれかが子供に悪いことをしたら、その男は自分の首に石臼をくくりつけて海にとびこんだほうがましだとね。」といってたけど、それはマタイ福音書18章にある。
「しかし、わたしを信じるこれらの小さな者の一人をつまずかせる者は、大きな石臼を首に懸けられて、深い海に沈められる方がましである。」(マタイによる福音18章)
http://www2.odn.ne.jp/oasalc/kako/mattew18c1-14.htm
確かにイエス様おっしゃってるけど、これって児童虐待者について言った事なのかな。あまり現代の犯罪と結びつけて考える習慣がないので、ちょっと意外な感じがした。



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2012年01月04日

『リヴァイアサン クジラと蒸気機関』スコット・ウエスターフェルド 著



『リヴァイアサン クジラと蒸気機関』
 スコット・ウエスターフェルド 著
 小林美幸 翻訳
 早川書房(新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)


2010年ローカス賞ヤングアダルト部門受賞
2010年オーリアリス賞ヤングアダルト部門受賞

これは楽しい。
「テメレア戦記」や『移動都市』に近い味わいの冒険ファンタジーだけど、その中で最もおもしろかった(シリーズ全巻は読んでないけど)。

改変世界における架空の第一次世界大戦を描く冒険スチームパンク。三部作の第一作。

ダーウィンが19世紀半ばにDNAを発見し、遺伝子操作が可能になった世界。

物語の舞台は20世紀初頭のヨーロッパ。イギリスをはじめとするダーウィニズムを信奉する国々では、遺伝子操作により新種生物を次々と作り出し、乗り物や兵器として使用していた。
一方、ドイツなど遺伝子操作を拒否する国々はクランカーと呼ばれ、機械工学を発達させて対抗し、歩行戦闘機械などが作られていた。
1914年、オーストリア・ハンガリー帝国の大公夫妻がサラエヴォで暗殺されたことをきっかけに、両陣営の間に戦争が勃発する。
大公夫妻の息子アレクサンダー公子は、皇位継承権をめぐる陰謀から命を狙われ、数名の家臣と共にウォーカーに乗り込んで逃亡する。
イギリスでは、空を飛ぶことにあこがれる少女リデンが、男の振りをして士官候補生になり、クジラを改造した巨大飛行獣リヴァイアサンに乗り込む。
やがて遭遇する二人。
だが拡大する戦火は否応なしにに彼らを飲み込んでいくのであった。


これほど「絵になる」小説も珍しいだろう。
体内で水素を生成して空に浮かぶ巨大クジラ。伝言トカゲ、 六脚に二つ鼻の水素探知獣など、奇怪で魅惑的な新種動物が跋扈する世界。それがパワードスーツ的な戦闘機械と絡み合うのだから。ツェッペリン号など実在の乗り物も登場。楽しさ満点。

キース・トンプソン氏による挿絵の魅力も大きい。
http://www.keiththompsonart.com/gallery.html
ホームページでたくさん見ることができる。特にカラーイラストが良い。

http://www.youtube.com/watch?v=PYiw5vkQFPw&feature=youtube_gdata_player
ユーチューブなどで、キース・トンプソンの絵を元にしたトレーラーを見ることができる。
これがもっと本格的にアニメーション化されたら見てみたいな。
最近のCGアニメーションは本物っぽい映像を作ることにはずいぶん発達してきてるけど、手書きのタッチまで再現できるようになれば無敵だろう。

なお邦訳版の表紙絵はPablo Uchida氏が描いてる。これはこれで、懐かしい少年SFみたいな感じで好き。Uchida氏のホームページで、制作過程を見せてくれている。
明朗なヤングアダルトSFの雰囲気を伝えているのはむしろこっちの方かも。キース・トンプソン氏の方はねちっこい感じ。

設定倒れではなく、ストーリーやキャラクターも魅力十分。
少年と少女の成長と友情がきっちり描かれる(と思われる。一作目なのでまだ片鱗だが)。
男装の少女デリンは内心の声までべらんめえ調の男言葉なので、今で言う性同一性障害か?とも思ったけど、そういうわけでもなさそうだ。
宮崎アニメにも通じるまっとうなヤングアダルト向けの冒険物語だ。宮崎さんが宮崎アニメらしい宮崎アニメを作ってくれなくなった今、寂しさをまぎらすのにもいい。

三部作の後半の方が評判がよいようだ。
日本も参戦するらしい。日英同盟があるからダーウィニズム側かな。明治維新以降、欧米列強に追いつくため遺伝子操作技術を学んできたのだろう。
楽しみなシリーズだ。

新☆ハヤカワ・SF・シリーズのページ
スコット・ウエスターフェルドのホームページ
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2011年12月17日

『東方綺譚』 ユルスナール著




『東方綺譚』
マルグリット・ユルスナール 著
多田 智満子 翻訳
白水社(白水Uブックス)

点数:90点(100点が最高)


フランスの作家ユルスナールによる幻想的短編集。
中国、日本、インド、ギリシア・・・。
東方世界の神秘が見事な文体で描かれる。

「珠玉の名品」という表現はこういう作品に出会ったときのためにとっておきたい。
一気に読んでしまうのが惜しくて、いとおしみながら一日一篇ずつ読んだ。

繊細きわまるものから民話以前といった粗削りな感じのするものまで。
日本代表として「源氏の君の最後の恋」。晩年の光源氏を描いた皮肉な作品。原典もこんな感じだったら読むのになあ、と思うほど見事。(原典もきっと見事なんでしょうけど)

多田智満子さんによる翻訳の力も大きいと思う。

訳者後書きによると、初版にあった「クレムリンの囚人」は、作者の気に入らず削除されたそうだ。
これもどなたか訳してくれないだろうか。
ユルスナールの高度な美意識では不出来とされたものでも、私の美意識ではきっと区別できないだろうから。

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2011年08月20日

『カルカッタ染色体』 アミタヴ・ゴーシュ 著



『カルカッタ染色体』
アミタヴ・ゴーシュ 著 伊藤真 訳
 DHC刊


本日8月20日はマラリア蚊の日。
19世紀終盤に、イギリス人医師ロナルド・ロスがマラリア原虫のライフサイクルを解明した日にちなんでいるそうだ。

この時期に読むのにぴったりなSFサスペンスの傑作が『カルカッタ染色体』だ。
(そもそもこの本でマラリア蚊の日を知ったのだ。)

アーサー・C・クラーク賞受賞作。

主な舞台は三つ。
一つは近未来のニューヨーク。
国際水利委員会の職員として単調な在宅勤務をしていたアンタールは、ある日、古いIDカードを発見する。
それは数年前にインドで失踪したかつての同僚ムルガンのものだった。ムルガンは、マラリア研究でノーベル賞を受賞した医者ロナルド・ロスについて調べていた。常軌を逸した熱意で周囲を辟易させていたが、カルカッタでの現地調査中、謎の失踪を遂げたのだった。
ムルガンの失踪を調べ始めたアンタールの周囲では、奇妙な出来事が起こり始める・・・。

一つは1995年のカルカッタ。ムルガンは、ロナルド・ロスによる100年前のマラリア研究の真相を調べるため当地に到着した。
素人同然だったロナルド・ロスが、そうそうたるライバル研究者を追い抜いて発見できたのはなぜか。発見の背後には謎の秘密組織があり、ロスの研究を密かに導いていた、との説にとりつかれたムルガンは、科学をめぐる闇の中に踏み込んでいく。

一つは19世紀終盤のインド。
ロナルド・ロスたち研究者は、後にロスにノーベル生理学・医学賞をもたらすことになる重要な研究に邁進していた。
彼に近づくなぞめいた助手の正体は。


目眩くような幻想的スリラーだ。
マラリア発見史にまつわるうんちく自体がまず面白いし、そこに虚実皮膜の陰謀史観が重なってくる興奮。
マラリアが見せる幻覚のような、悪夢的世界が展開する。

著者アミタヴ・ゴーシュはアメリカ在住のインド人作家。純文学畑の人だそうだ。
訳者あとがきによると、原書のペイパーバック判のカバーにはアーサー・C・クラーク賞受賞作であることがどこにも謳われておらず、SF評論家には「SF蔑視ではないか」と怒る人もいたそうだ。
日本語版でも、あとがきを読まないととクラーク賞のことはわからないようになってる。
普通のSFのつもりで読むと、あれれ? となるだろうからこれでいいのかもしれない。
『フリッカー、あるいは映画の魔』なんかに近いと思う。

でも、純文学系の作家だってことはきっと謎は謎のまま曖昧に終わるんだろうな、と半ば覚悟して読み進めていたのだけど、必ずしもそうではなかった。
謎は残るにしても、見事な結末がちゃんと付く。とても精妙に組み立てられた物語。

あと、鉄道の引き込み線の話とか、独立した怪奇譚としてもおもしろい。「怪奇小説傑作集」とかのシリーズに入ってたとしてもおかしくない。


ついでに・・・

カルカッタを舞台にした幻想的物語、ということでダン・シモンズの『カーリーの歌』を思い出した。
確か失踪したインド人作家をめぐる話だったと思う。重層的な語り、というのも共通点かな。
こちらは白人目線でおどろおどろしさが強調されている。ホラーだから当然か。
怖くはないけどとても面白かったと記憶している。


インドでの失踪、ということでこの『インド夜想曲』を思い出した。
イタリア人作家アントニオ・タブッキの幻想小説。
インドで失踪した友人を捜す男の物語。
「インドで失踪する人はたくさんいます。インドはそのためにあるような国です」という印象的な一文がある。

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2011年08月12日

『アヴァロンの霧』 マリオン・ジマー・ブラッドリー 著

アヴァロンの霧〈1〉異教の女王 (ハヤカワ文庫FT)
アヴァロンの霧〈2〉宗主の妃 (ハヤカワ文庫FT)
アヴァロンの霧〈3〉牡鹿王 (ハヤカワ文庫FT)
アヴァロンの霧〈4〉円卓の騎士 (ハヤカワ文庫FT)


『アヴァロンの霧』
 マリオン・ジマー・ブラッドリー 作 岩原明子 訳
 早川文庫FT

アーサー王伝説を、モーゲン(モルガン・ル・フェイのこと)など女の視点から読み替えた傑作ファンタジー。
数年前にテレビドラマ化されたものを見てとてもおもしろかったので、その頃読もうとしたのだけど、表紙の絵が少女マンガみたいで手に取れずあきらめたのだった。

時間はたったけど読んでよかった。美しく感動的な物語。
アーサー王伝説って華々しさよりも寂しさや無常感を感じるものが多いと思うけど、これもそうだった。

内容(「BOOK」データベースより)
時は5世紀。ブリテンはキリスト教とドルイド教の二つの世界に分裂し始めていた。このままでは、蛮族の相次ぐ侵攻を食い止めることもかなわない。この窮状を切りぬけるにはまず、相異なる二つの宗教が共存できる統一されたブリテンを造り、指導する人物が必要だった。そこで聖なる島アヴァロンの女王と魔法使いマーリンは、ブリテンの運命を担うべき人物の両親として女王の妹とウーゼル王に白羽の矢を立てた。だが、女王の妹はすでに他の王と結婚していた…。妖姫モーゲンの視点からアーサー王伝説を語り直した超ベストセラー作品、遂に登場。


正直言うと、全4巻のうち、最初の3巻くらいはちょっと退屈だった。

アーサー王の妃グウェンフウィファル(グィネヴィアのウェールズ語読みらしい)に代表されるキリスト教勢力と、古い神々を奉ずるモーゲンたちとの対立、という軸はあるものの、あまりわかりやすく対立してくれない。憎んだり仲良くなったり。
モーゲンの意図や感情も曖昧で一定しないし、女神の目的がなんなのかもよくわからない。
そこがリアルで、この小説の深みにつながるわけだけど、読み進めるための牽引力としては弱くなる。

意識的なのか、戦争シーンが全くといっていいほど描かれない。そのかわり恋や嫉妬や妊娠や結婚に悩む話がたっぷり描かれる。ちぇっ、女め、という感じ。

あと、ニューエイジ思想とかフェミニズムとか、古代よりも20世紀の臭いが強い気がした。20世紀の小説なのだからそれが悪いとはいえないけど、こちらの期待とは違ったので受け入れるのにちょっと手間取った。
心理描写が細かすぎて物語が停滞する、というのがブラッドリーの欠点と指摘されているそうだけど、本書についてもそれを感じた。

でも、この長い蓄積があってこそ、終盤の感動があるわけだ。

やがてあらわれる美しき予定調和的世界。
一神教はこうだが多神教はこうだ、みたいな図式的見方をする人たちに読ませたい(これも図式的でないわけではないけど、物語としてはとてもきれいに昇華されてると思う)。

最近は大長編ファンタジーが山ほどあるので、1巻だけ読んでつまらないとやめてしまうことが多いけど、反省した。小説に刹那的な刺激を求めてはいけないな。じっくり別世界に身を沈める、というファンタジーの楽しみ方を久しく忘れていたよ。


なお「アヴァロンの霧」のテレビドラマについてはここなどに。
http://americatvfilmnotes.web.fc2.com/The_Mists_of_Avalon.html
http://alt.tnt.tv/movies/tntoriginals/mists/


ちなみに、アーサー王伝説を映像化したもので私が一番の傑作だと思ってるのはジョン・ブアマン監督の『エクスカリバー』。アヴァロンの霧とは対照的に荒々しい世界。アーサー王に限らず「剣と魔法もの」で一番好きかも。ジョン・ブアマンて過小評価されてる気がするんだが。



『図説アーサー王伝説事典』
 これを参照しながら読んだ。誰がどういう伝承を持っているか、などコンパクトにまとめられてるので、重宝した。


Arthurian Art Gallery  
Arthurian Art  
アーサー王関連の絵画を集めたサイト。最近は表紙の絵が気に入らなくても自分で気に入った絵を印刷してカバーを作れるのでありがたい。実際にそこまですることはあまりないけど。

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2011年06月25日

『ドクター・ラット』 ウィリアム・コッツウィンクル 著



『ドクター・ラット』 ウィリアム・コッツウィンクル (著), 内田 昌之 (翻訳)
 河出書房新社 (ストレンジ・フィクション)


【世界幻想文学大賞(1977年)】

確か中学生頃に読んだ『世界のSF文学・総解説 』に原書の書影が載っていて、「世界幻想文学大賞受賞作」とあった。当時幻想文学に飢えていたので、読みたい! と思えど英語力はなし。待たされて待たされてついに邦訳が出た。

動物実験を激しく攻撃した諷刺小説。グロテスクで残酷、かなり刺激的。


こんなお話。

ある日、すべての動物たちの意識に変革が起こる。人間への隷属状態を脱し、なにかに導かれるように集まり始める。
そんな中で、ドクター・ラットを名乗る実験用ラットはただ一人、人間を支持しつづける。人間の実験に役立つことが動物の使命であり、死こそ解放である、と主張してやまない彼は、叛乱を起こしたラットの群れをおさえるべく戦いを始める。


反動物実験、反動物虐待が、すべて動物目線の強烈な描写で主張される。
文学的な実験に過ぎない、みたいなこと書いてた人もいたけど、これは本気でしょう。

中学生当時に読んでいれば、全面同意できる主張に激しく共感したろう。今の私はなんというか、居心地の悪さを感じた。

臭いもののふたを開けて読者に突きつけてくる強烈な小説だ。
それを抜きにしても、毒々しいユーモア、解放された動物たちの高揚感あふれる独白、など、楽しめた。楽しめたってのはちょっと違うか。
特に冒頭の数章は、どこに連れて行かれるのかわからないようなスリルがあった。



この本の感想を書く以上、動物実験についての意見を表明すべきかもしれない。あまり表明したくないが。
昔は実験には大反対で、動物を苦しめてまで医学の発展など必要ない、と思っていたのだけど、今は慣れてしまったというか、どうせ生き物は大量に死ぬのだから、実験動物だけが特に悲惨とも思えなくなった。
医学に役に立つなら許されるのではないかと思う。研究者の雇用を維持するための犠牲なども多いのじゃないかって気もするけど、裾野が広くないと成果もあがらないのではないか。
ただ、無用の苦しみを除くような配慮はしてほしい。
過激な動物愛護活動家には腹立つこともあるんだけど、こういう人たちがいないと改善はされないんだろうな。

でもやっぱりこんな意見は言いたくなかった。清い心で自然や動物を愛でているうちに、ひとりでに医学が発展してくれればいいのに。
そもそも目をそらしてるだけの私に意見を言う資格はないのかもしれないが。


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2011年03月20日

『華竜の宮』 上田 早夕里 著



『華竜の宮』
上田 早夕里 (著)
(ハヤカワSFシリーズ Jコレクション)


いつまでも呆然としているわけには行かない。人生は続く。
今日は電力も足りているようだし、ブログでも書こう。

こんな時こそ視野を広げてくれるSFを、と思い,話題作『華竜の宮』の感想を書く。もっとも読んだのは地震の前だが。

今日、週刊ブックレビューを見たらちょうど取り上げられていた。録画だろうけど、「津波のように感情を持っていかれる」、みたいに紹介されていた。内容ともどもタイムリーすぎる。
なんでも著者の上田早夕里さんは神戸の震災を経験しているとかで、それも反映されているようだ。

「SFが読みたい!〈2011年版〉」ベストSF2010「国内篇」第1位

内容:
陸地の大半が水没した25世紀、人工都市に住む陸上民の国家連合と遺伝子改変で海に適応した海上民との確執の最中、この星は再度人類に過酷な試練を与える。黙示録的海洋SF巨篇!(ハヤカワ・オンラインより)

面白かった。正統的な日本SFという感じ。
あまり先鋭的な感じではないので読みやすい。
近頃のサイバーパンクとかにはついていけないものを感じてる自分にはありがたかった。
海外の先鋭的なSFだと,ずっと先まで読まないと会話の内容が理解できなかったりとか,読者の知性を信頼するのも大概にしてほしいと思うものが多い。
その点,これは2010年の読者向けにその都度説明してくれるので,すらすらと読み進めることができた。
もちろん読みやすいだけではなくて,世界の設定とかよく考えられていると思った。

ただ,25世紀という未来で,おまけに大変動を経験しているにしては,倫理観とか政治意識とか,ほとんど今と変わらないってのはどうなのか。
日本政府は外交下手で官僚主義的ながら,ネジェスの傘の下で果実を得ようとする。
中国(汎ア)政府は強圧的で,民衆を激しく弾圧する。
いかにも2010年の日本人が考えそうな設定だ。
国土の大半が水没した程度では国民性は変わらないという考えなんだろうか。
SF的な飛躍を最低限にして,現実の延長として未来を捉える姿勢は誠実である,とも言えるか。

ややこしい政治的駆け引きがかなり詳細に描かれるのだけど,正直言って,余り興味を持てなかった。
それより獣舟を初め,激変した未来の生態系を詳しく描いてほしかった。もっともそれは短編集『魚舟・獣舟』でやってるのかもしれない。

でも、困難な現実的課題を粘り強く地道に解決していく主人公・青澄は、震災の後で読んでいたらもっと魅力的に見えたかもしれない。

ちなみに,私があまりSFを読まなくなってしまったのはグレッグ・イーガンのせいでもある。
あまりにイーガンが面白くて,ほかのSFは別に読まなくてもいいや,という気分になってしまったのだ。
この『華竜の宮』にしても,やはり物足りなさが残った。


上田 早夕里 オフィシャルサイト
上田早夕里Twitter
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2010年11月14日

『ペルディード・ストリート・ステーション』チャイナ・ミエヴィル (著)



『ペルディード・ストリート・ステーション』
チャイナ・ミエヴィル (著), 日暮雅通 (翻訳)
早川書房 (プラチナ・ファンタジイ)

SFが読みたい!〈2010年度版〉 のベストSF2009 海外篇で1位になった。
アーサー・C・クラーク賞/英国幻想文学賞受賞作。

《バス=ラグ》と呼ばれる蒸気機関と魔術学が統べる世界で、最大の勢力を誇る都市国家ニュー・クロブゾン。
異端の科学者アイザックのもとに、翼をもぎ取られた鳥人族〈ガルーダ〉のヤガレクが訪れ、飛翔する力を取り戻してくれ、という依頼をする。おりしも街では、夢蛾スレイク・モスが現われ、大災厄の予感に人々は震えていた・・・。


主プロットはたいしたことなかった。怪物退治の話だもんね。肝心の怪物が今ひとつ迫力ないし。

魅力は、奇抜なキャラクター群や、人間と奇怪な生物群が共存する雑煮のような都市の描写。
危機エネルギーなどのアイデアも楽しい。

ビジュアル的には、エンキ・ビラルの「ニコポル三部作」なんかを思い出した。特に『不死者のカーニバル』。鳥頭とか虫頭とか、飛ぶ人とかエビっぽい人とか。

http://bilal.enki.free.fr/
bilal1.bmp

ミエヴィルも漫画をかいているそうだね。
最近翻訳が出た『アンランダン』では絵も描いている。未読。

『ペルディード・ストリート・ステーション』の話に戻ると、正直言って、これ見よがしな残酷描写や頽廃描写はあまり好きになれなかった。
左翼系作家と聞いたけど,この小説に関してはそれらしいところは感じられなかった。

面白い細部はたくさんあるけど、全体としては、期待してたほどではなかったかな。

献辞に、もっとも影響を受けた作家としてマーヴィン・ピークが挙げられている。ピークの「ゴーメン・ガースト」シリーズは私が世界一好きなファンタジーなので、「ピークの後継者たり得るか?」という期待をもって読んでしまったのだけど、それが良くなかったかもしれない。
http://dokushoburogu.seesaa.net/article/1137442.html (ゴーメンガーストの感想)
描写の細かさは共通するけど,細かさが濃密さにつながらないんだよな。文章がもっとうまければよかったのに。
最初からB級モンスター小説と思って読み飛ばせばよかったかも。


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2010年10月16日

『川の光』 松浦寿輝 著



『川の光』
著者:松浦 寿輝
(中央公論新社)


子ネズミのタータは,お父さんと小さい弟チッチとともに,川辺の巣穴に住んでいる。しかし,夏の終わりのある日,川の暗渠化工事が始まってしまう。タータ一家は安住の地をさがし,川の上流へと旅に出る。だが行く手には、数々の困難が待ち受けていた。

とても面白かった。小さな動物の冒険物語に心動かされるような感性がまだ自分に残っていたとは。

詩人の書いたおはなしだから,もしかしたら物語性は薄いのかも,と予想していたが,ドブネズミ帝国との闘い(主人公一家はクマネズミ),イタチやノスリの襲撃など,けっこう波瀾万丈で,最後まではらはらさせられる。
無邪気な犬のタミー、猫のブルー、ドブネズミ帝国への叛乱者グレン、スズメさんにモグラさん、多くの素敵な出会いもある。
ネズミ一家の運命に一喜一憂しながら、心から楽しんで読んだ。

読後感は大変すがすがしい。川っぺりを夕風にふかれて二時間ばかり散歩したらこんな気持ちになるかもしれない。ひさしぶりに近所の川にいきたくなってしまった。身の回りの小さな生き物の世界がどんなに魅力にあふれているかに気づかせてくれる。

斎藤惇夫さんの『冒険者たち ガンバと15ひきの仲間』を夢中で読んだ小学生のころを思い出した。ガンバはドブネズミだが。『グリックの冒険』の方にもっと似ているかな。新天地を求めての北への旅、ドブネズミ対クマネズミの戦い。
子供のころから大切に思ってるこうした動物物語の中に、今になって新たに一冊が加わった。



物語の続きがありそうなことも書かれているけど、著者の「あとがき」によると、二度とこうした物語を書く機会はないだろうとのこと。続きは読者に任せられているということなのかな。残念だ、ぜひ松浦さんの手で再びタータたちを書いていただきたいが。


ここでネズミ雑学を少し。タータたちはクマネズミなわけだが,クマネズミはしっぽが長く,動きも軽い。垂直の棒でもしっぽをうまく使って上ってしまうという。一方のドブネズミはしっぽが短く,敏捷性にも劣る。例えばビル一棟のネズミ退治をすると,上の階はクマネズミ,下の階はドブネズミと棲み分けされていることもあるそうだ。
もちろんこの小説は実際の生態とあまり関係ない。タータなんて1年以上も生きてるのにまだ子供だし。

NHKでアニメーション化されている。小説を先に読みたいと思って見なかった。
http://www.nhk.or.jp/savethefuture/kawanohikari/


ラベル:川の光 松浦寿輝
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2010年08月29日

『テメレア戦記T』ナオミ・ノヴィク著



『テメレア戦記 I 気高き王家の翼』


 点数80点(100点が最高)

全巻そろってから一気に読みたいと思ってじっと待っていたのだが、いつになるか分からないので読むことにした。映画『ヒックとドラゴン』を見て感動して、無性にドラゴンファンタジーが読みたくなったのだ。


ドラゴンが実在するもう一つの世界。人はドラゴンを飼い慣らし品種改良して、戦争に使っている。
ナポレオン戦争の時代、イギリス軍に所属するドラゴン、テメレアと、彼に乗る人間の士官ローレンスの活躍を描いた歴史ファンタジー。

なかなか面白かった。全巻一気に読みたいと思うほどではなかったけど。
テメレアを始め、ドラゴンたちは実にけなげ。なんでそこまで人間が好きなんだ、と悲しくもなってくるが・・・。
相棒のローレンスとの友情がさわやかに描かれていて好感が持てる。ローレンスはいかにも英国の理想的な軍人という感じで、誠実に自分の義務を果たそうとする。読んでいて気持ちよかった。
超自然的要素を最小限にして、動物としてのドラゴンを描いている。産まれた途端に英語しゃべるのも、苦しいながら説明されている。安心して普通の冒険小説を読むように楽しく読んだ。その分、ファンタジーとしての魅力は限定的かもしれない。
戦闘シーンは意外に迫力無かった。でも、歴史上の海戦にドラゴンたちが絡んでくる、という虚実皮膜の展開はやはり新鮮だった。
ドラゴン一頭につき乗り手一人、ではなく、銃手、信号手などが多数乗り込むというのも珍しいかな。重爆撃機のような感じか。
ピーター・ジャクソン映画化、ということだが、映像で見ると楽しいだろうな。

この時期のナポレオン戦争については、例えばこのサイトとかに。
「ナポレオン戦記」
http://napoleonicwars.web.fc2.com/military-history/1805.html


最近、ドラゴンと人が1対1の親密な関係を結ぶ、という物語が多いような気がする。エラゴンとか。馬や犬じゃないんだから、あんまり矮小化しないでくれ、と言いたくなることも多い。ドラゴンが人間の友達なわけないだろう、と。
「テメレア戦記」もその点は同じで、最初の内はあまりに人間的なドラゴンに違和感を覚えたりもした。品種改良の結果なのかな。でも、品種改良ができるほどの繁殖力があるなら、ドラゴン不足に悩むこともなさそうな気もするが・・・。


基本的には、ドラゴンが存在すること以外は、この世界の歴史は現実の歴史とに大きな違いは無いようだ。例えば、日本が元寇を追い返したのは、神風のせいではなく、ライデンという龍の活躍によるもの、と伝承されている。このようにつじつまがあうようになっている。
このコンセプトが今後も続くのかな。ナポレオン戦争以降の近代戦で、組織的にドラゴンが使用されるようになれば、歴史にも大きな影響を与えそうだけど。
実在のナポレオンは、陸上戦には強いが海戦には弱いと言われているが、空軍の存在は戦略を根底から変えてしまうのではないかな。とも思えるけど、今のところその辺はあまり踏み込まず、ドラゴンはドラゴンで戦っている感じだ。
また、ドラゴンの存在はヨーロッパの植民地戦略も大きく変えずにいないのではないか。特に東洋のドラゴンが大きな価値を持っているそうだし。「眠れる龍」中国の今後の動きにも要注目だ。
日本のドラゴンも戦闘力が高いとされているようだから、ペルリ来航を待たずして太平の眠りを醒まされることになる可能性もあるのでは、などと空想をめぐらすのも楽しそうだが、まあ作者の胸三寸だからな。
今後は中国やアフリカなどが舞台になるという。この第1巻ではかなり英国びいきに見える作者だが、植民地獲得競争がどう描かれるのだろう。


英国海軍の雄ジャック・オーブリー パトリック・オブライアン 著
パーンの竜騎士 アン・マキャフリー 著

特にテメレア戦記に影響を与えたとされるのがこの二つのシリーズ。
ジャック・オーブリーは『マスター・アンド・コマンダー』として映画化もされた。映画は面白かったが、帆船ものは苦手なので未読。
パーンの竜騎士は昔いくつか読んだ。あまり面白くなかった。
ラベル:テメレア戦記
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2009年11月02日

『ハローサマー、グッドバイ』マイクル・コーニイ 著



『ハローサマー、グッドバイ』 (河出文庫)
マイクル・コーニイ (著), 山岸真 (翻訳)


 点数:80点(100点が最高)


 名のみ高かったが、サンリオSF文庫の廃刊により入手困難となっていた名作がついに復刊!(去年のことだが) 河出書房さんありがとう! これからもどうぞよろしく。

 異星の環境を大仕掛けで描く正当的SFにして、少年の一夏の経験を描く成長物語でもある。

 夏の間に読もうと思っていたのだけど、間に合わなかった。でもかえって良かったかな。寒さが身にしみてくる季節に読む方が合うかもしれない。

 本書の大きな魅力の一つとされる恋愛物語としての部分が今ひとつ楽しめなかった。多くの読者がそこに反応しているらしいのだけど。
 前書きが「この星の住民はヒューマノイドなので地球人とほぼ同じと設定する」みたいな引っかかる書き方をされているので、これは裏があるな、と警戒心を働かせてしまったのが悪かったのかな。
 もっと素直に読めば良かった。裏がないわけじゃないけど、少年の成長や恋愛を描いた部分はそのまま受け入れてかまわないものだった。

 そんなわけで、言われてるほどの傑作じゃないかな、と思いながら読んでいったのだけど、終盤まで来て、おお、これは傑作、と納得した。

 この世界の技術水準は、地球の(ヨーロッパの)19世紀的レベルに設定されているので、機械類のディテールがもっと書き込まれてたら、スチーム・パンクとかキース・ロバーツの『パヴァーヌ』みたいな魅力が出たのになあ、とやや不満。

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2009年06月27日

『英雄の書』 宮部みゆき 著




72点(100点が最高)

 宮部みゆきならハリー・ポッターにも負けない面白いファンタジーが書けるに違いない、という期待を持ったこともあったけど、読んだ範囲では、あまり良いいものはないように思う。日常に少し超能力が混じる、という程度のものなら面白いのに・・・。やっぱり向き不向きがあるようだ。

 この『英雄の書』も、今度こそ! と思ったけど今ひとつだった。でも部分的には面白かったし、最後の最後には泣かされたので、読んでよかったかな。

 プロローグはちょっと『大いなる遺産』を思わせ、1章は『アグリー・ガール』に似ており、『はてしない物語』風の設定や『千と千尋の神隠し』っぽい展開もあり・・・と列挙したのには特に意図はないのだけど、この小説は全体として物語論になっているので、先行する物語を思いつくままに挙げてみたのだ(従者の名前がソラなのは奥の細道か?)。
 もっとも、本書でいう物語とは歴史やイデオロギーなども含んだものだ。物語とは嘘であり、それでいて強く人を縛るものである。だから物語を「紡ぐもの」は咎人である。
 咎人は「無名の地」という時空を越えた世界にとばされ、無名僧として苦行しなければならない。その「無名の地」には、「英雄」、またの名を「黄依の王」が封印されていた。ある時、「英雄」は破獄して世に放たれる。
 「英雄」は、この世界に戦をもたらす恐ろしい存在だという。破獄を助けたのは、日本の中学生・大樹だった。大樹の妹の友理子は、兄を助けるため、本に導かれて冒険の旅に出るのだった。というお話し。

 物語とは何か、世界にどういう影響を持つのか、という議論がこの小説の枠組みになっている。この枠組みの方が中身より重要になっている感じがした。枠組みを生かすためにはユーリの冒険がもっと精彩ゆたかに描かれてないとだめじゃないかなあ。物語のすごさや怖さが伝わらない。

 日本の学校を描いた部分はさすがにうまいけど、異世界描写はやっぱり良くない。特にヘイトランドの条が面白くなかった。悪いのはヘイトランドの物語を作った作者か誰かかもしれないが。この程度の物語だったらすぐに忘れられて咎の大輪に回収されてしまうんじゃないだろうか(そういう設定でいいんだったっけ)。

 アジュとか、本としての特徴が生かされてないのも残念だった。ヘイトランドを作った作家が登場して干渉したり、という錯綜した物語になるのかなあとも期待したけど、それもなかった。
 どうも教訓が目的みたいになってしまってる。


 文体にも気になる点があった。セリフは、通常カギ括弧でくくっていて、つまり直接話法であらわしてるんだけど、最後の部分だけを括弧から出して、間接話法みたいにしてるところがたくさんあった。

「どうしてセリフをこんな風に書くのだろう」
 私には理解できない、と言った。

 みたいな感じ。セリフを省略してるわけでも心の声って訳でもなく、ふつうに括弧内に入れればいいものをわざわざ外に出してる。強調等の効果を狙ってるにしては頻繁すぎる(そもそもそんな小技で効果出さない方が良いんじゃないかと思う)。宮部さんて前からこんなやり方してたっけ。
 京極夏彦の2,3年前の小説でも、ほとんど会話のたびにこれをやっていて、いらいらしてしょうがなかった(だからその後の新作は読んでないのだ)。仲良しらしいから影響関係があるのかな。
 私が気にしすぎなのかもしれないけど、これ以上こんな技法が広まってほしくないのであえて書いた。ここに書いたところで影響力ないけど、一にして万、万にして一ってことで・・・。
posted by 読書家 at 18:12| Comment(0) | TrackBack(1) | SF,ファンタジーなど | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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