大滝秀治さんの追悼番組で舞台「らくだ」(別役実 作)を見た。
あらためて大滝さんの味わいある演技とたたずまいに打たれました。ご冥福をお祈りします。
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で、見ながら、古典落語「らくだ」は日本のゾンビ伝説ではないか、という説を思いついた。
古典落語「らくだ」はこんな話だ。
長屋の嫌われ者らくだは、フグの毒に当たって死ぬ。らくだの兄貴分は、大家たちに葬式代などを出させるため、死体にかんかんのうを踊らせて脅すのであった。
民族植物学者のウェイド・デイビス博士がハイチのゾンビ伝説に挑んだ『蛇と虹―ゾンビの謎に挑む』
ヴードゥー教の呪術師は、テトロドトキシンを敵に投与することによって仮死状態とする。死んだと思われて埋葬された敵を後で掘り返して、奴隷として使役するのだという。
(うろ覚えだが、ウィキにもそんなことが書いてあったのでだいたい合ってると思う。)
テトロドトキシンといえばフグの毒として知られている。らくだの死因がフグの毒だったことを思えば、符合は明らかだろう。
1.テトロドトキシンによる仮死。
2.早すぎた「死の認定」。
3.死体が動き出す。
江戸時代の日本でも、ふぐにあたって死んだと思われた者がよみがえる例もあったであろう。
おそらく、実際の事件に着想を得て、脚色を加えてできたのが落語「らくだ」ではないだろうか。
ここで「らくだ」のうんちくを。
桂米朝さんによると、
「この落語は、明治から大正へかけて上方落語界で名人と言われた桂文吾から、三代目柳家小さんが譲りうけて東京へ持って帰り、十八番にしたもので、元来は上方の落語です。
私の師匠米団治の説によれば、昔の「らくだ」はもっと単純なお笑い本位のネタであったということで、酒を飲みながらの紙屑屋の述懐の長ゼリフに、その人間の人生や生活がにじみ出る……というような演出は、この文吾の始めた型であるそうです。」
「特選!!米朝落語全集 第一期 別冊解説書」より
書き写しただけだからうんちくとは言えないか。
やっぱり桂米朝さんの落語が一番好きだ。
立川談志も「らくだ」は悪くなかった。名演とされている「芝浜」は、リアリズムで演じられる夫婦のやりとりが気持ち悪くて耐えられなかった。
こう思うのは私だけではなく、追悼番組で山藤章二さんが「なんで新派悲劇(?)みたいなじめじめした演出をするのか。そこへ行くと三木助の芝浜は粋でよかったねえ」みたいなことをコメントしていて、我が意を得たりと膝を打った。(山藤さんの発言はうろ覚えですが)。
こういうことをちゃんと言ってくれる人がいてよかった。もちろん、山藤さんは談志の友人でもあり、その力量を認めた上での発言ですが。
「らくだ」ではじめじめした演技がほどほどに抑えられていて大丈夫だった。悪者をやるとすごみがあった。
特選!! 米朝 落語全集 第七集
「らくだ」「京の茶漬 」所収