『落下の王国』 原題 The Fall 2006年
監督・製作・脚本
ターセム
出演
リー・ペイス
カティンカ・アンタルー
ジャスティン・ワデル
ダニエル・カルタジローン
試写会で見てきた。事前に予想していたのとだいぶ違った。先鋭的なアートフィルムかと思いきや、心暖まるとてもいい映画だった。鮮烈な映像美は予想どおり。
20世紀前半のアメリカ。スタントマンのロイは橋から落ち大怪我をおい、身動きを取れなくなって入院している。彼は失恋の痛手もあって絶望し、自殺願望を抱いている。同じ病院には、オレンジの木から落ちて怪我をしたアレクサンドリアという5歳の女の子も入院していた。ロイは女の子に即興でお話を語る。そのお話とは、残虐な総督に反逆するならず者たちの物語だった。
かくして、ロイが紡ぎ出す不思議な物語と、現実世界の病院の話が交互に描かれていく。アレクサンドリアは、「怒った人たち」(馬泥棒)に殺された自分の父親をその物語に投影していくのだった。
本や物語の世界が現実と絡み合う、というタイプのストーリーは私は大好きで、最近だと『パンズ・ラビリンス』なんかよかったけど、この『落下の王国』の場合、現実と物語の関係がすごくゆるいのがいい。女の子の体験が物語に紛れ込んだり、矛盾を指摘されてあわてて設定を変えたり、そういうゆるい感じが実に楽しい。オフィシャルサイトによると、実際にアレクサンドリア役のカティンカ・アンタルーの反応を見ながら脚本も変えていったそうだ。
この女の子がすばらしくて、演技のうまいへたなんてどうでもよくなるくらい存在感があってかわいかった。この子がいなかったら映像が美しいだけの映画になってしまった可能性はあるかも。
架空の物語の方は、世界遺産など世界中で撮影された美しい映像で描かれる。どのショットをとってもばっちり決まっていて、映像派ターセム監督の面目躍如。色鮮やかな衣装をまとったならず者たちがアーグラ城などに跳梁する幻想的光景を見るだけでもこの映画を観る価値はある。でも動きのおもしろさより静止した構図の見事さで魅せる監督みたいだな。
観光CMみたい、とか言う人もいるかもしれない(私は言わないが)。それは映画的な美しさとは無縁である、とか。
石岡瑛子デザインの衣装もすばらしい。石岡さんのインタビューを「広告批評」2008年6-7月号で読んだところ、北京オリンピック関係の話が主だけど『落下の王国』についてもふれられていた。石岡さんもターセム監督にはかなり入れ込んでるみたいだ。
ターセム監督については、前作『ザ・セル』の予告編をみて、その斬新なイメージに興奮したけど、なぜか本編は見てない。『マトリックス』とかと同じで予告編だけ見れば十分な映画のような気がしたんだろうね。
『デリカテッセン』や『ロスト・チルドレン』の監督のどちらか(多分ジュネ)が、「あの猿まね野郎だけはゆるせない」と口を極めてターセムを罵っていたのを読んだ憶えがあるけど、借り物のイメージが多い監督なんだろうか。
『ザ・セル』を観てないので何ともいえないけど、確かに『落下の王国』をみても独創的な感じはしなかったな。この映画の魅力の多くは世界遺産などの風景の魅力に負っている。それだって魅力には違いないんだからかまわないけどね。別に監督の才能を測るために映画を見る訳じゃない。
少なくともジャン・ピエール・ジュネ、マルク・キャロのどの映画より、私は『落下の王国』が気に入っている。『ロスト・チルドレン』の美少女の精彩のなさをこのアレクサンドリアと比べてみただけでもこちらの肩を持ちたくなる(いやここで比べるのはおかしいな。剽窃かどうかって問題とは関係ないもんな)。
ここからはちょっとネタバレぎみの感想。
物語の力が傷ついた心を癒やす、という展開になるのかと思ったら必ずしもそうなっていないようだ。少なくともロイの方は。
ロイがお話をしたのは、自殺用のモルヒネを手に入れるため、アレクサンドリアを手なずけようとしたに過ぎなかった。
モルヒネをとろうとして転落し、頭に大けがしたアレクサンドリアがようやく意識を取り戻し、ベッドでお話の続きをせがむと、ロイは、登場人物が次々に殺されていく悲惨な話を語るのだ。そりゃないだろう。女の子が泣きながら殺さないでと頼んでるのになに考えてるんだ、こいつは。宮崎駿が「どんなに絶望を抱えてても子供にそれを語るべきではない」と言っているのをしらないのか(ああ、まだ宮崎駿が生まれる前の話か、失礼)。
作り手としては、自殺を思い詰めるほど絶望した男が簡単に回復したら安直すぎると思ったのかな。でも、嘘と知りつつ、語っているうちに心がほぐれていく、というふうにもっていくべきじゃなかったのかなあ。その辺の処理がうまくいってない気がした。
最後には、ロイもアレクサンドリアの懇願に負ける形でハッピーエンドにするんだけど、殺されたならず者たちはもう戻らない。
・落下の王国 公式サイト
・落下の王国@映画生活
2008年08月29日
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