2013年07月28日

『マルテの手記』 リルケ著





『マルテの手記』 リルケ著

積ん読状態が生涯続くものと思われた『マルテの手記』だが、「貴婦人と一角獣」展を見たのをきっかけに読むことにした。
『マルテの手記』中の、このタピスリーを描写した文章が展覧会場にも掲げられていた。

この美しいタピスリーをみることができたのもうれしかったけど、おかげでリルケに出会えたのも同じくらいうれしかった。

リルケという名前のせいか、リリカルで蝶よ花よみたいな感じの小説かと勝手に思っていたのだけど、想像とはかなり違った。

孤独と不安に満ちた恐ろしい小説だった。

『マルテの手記』は1904年から1910年までにわたって書かれた小説で、デンマーク貴族出身の無名詩人、マルテによる手記という設定。
マルテはリルケの分身という面もあるようだけど、自伝ではない。
統一したストーリーはなくて、パリでの苦悩に満ちた生活、子供時代の思い出、歴史や聖書のエピソードをめぐる考察などが、脈絡なくつづられる。

詩人の非常に鋭敏な感性がとらえた諸々の事象が、とても喚起力の強い硬質な文章で語られる。
磨き込まれた宝石のような芸術品、というたとえはちょっと違うか。さわると怪我をしそうなあちこち尖ってひび割れた宝石、というたとえはいかがでしょう(下手なたとえはやめたほうがいいか)。

読みやすくはないけれど、エピソードや描写がとても印象的なので、退屈とは無縁だった。

岩波文庫版(望月市恵 訳)で読み始めたけど、途中から新潮文庫版(大山定一 訳)と併読した。
読み比べてやっと意味がわかったり、まったく別の意味に訳されてて首をひねったり。
新潮文庫版の方が若干読みやすいと思う。
岩波文庫版のほうが鋭い感じで、ちょっと好きかな。
原語もかなり難解らしいので、読みにくいのは翻訳が悪いわけじゃないと思う。


堀辰雄の『風立ちぬ』は、途中からいつの間にか別の話になっていたりして、不思議な構成の小説だなあと思ったのだけど、今思うと、リルケの影響だったのかもしれない。
青空文庫には堀が訳したリルケがたくさん載ってる。
http://www.aozora.gr.jp/index_pages/person75.html#sakuhin_list_1
『マルテの手記』は部分訳。Kindle にも載ってるけど部分訳のはず。「マルテの手記」堀 辰雄 訳



ジョルジュ・サンド作『ジャンヌ』
これにも「貴婦人と一角獣」についての記述がある。
これも読もうかな。でもネットで見た限りでは評価が高くないようだ。
代表作の『愛の妖精』を先に読んだ方がいいかな。


ところで・・・タピスリーでは一角獣と獅子はほぼ同じ比重で描かれているのに、何で一角獣ばかりが強調されるのだろう。テレビや雑誌の解説でも獅子はほぼ無視されていたが。

ikkakujuu.jpg
posted by 読書家 at 22:52| Comment(0) | TrackBack(0) | 純文学など | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2013年07月26日

『風立ちぬ』 宮崎駿監督


期待1割、不安9割という感じで109シネマズに見に行ったのだが、果たして・・・。

今回はとても良かった。

緻密に描かれた戦前の町並みや人々の営みがとても魅力的で、ずっと見ていたい感じ。
お得意の飛行シーンより、地上のディテールのほうがずっと面白かった。
(もっとも宮崎監督は半藤一利さんとの対談で、時代考証では嘘をつきまくった、と語っているので、昔の日本はこうだったとか思わない方がよいかもしれない。知った上で嘘つくのはいかがなものか)

あと地震の場面など、夢なのか現実なのか迷うような、誇張された表現も随所にあって、自由自在な表現もおもしろかった。普通ならなんだこりゃってなりそうな描写も、ハウルやポニョを経た今では自然に受け入れられる。

人物は目が大きいいつもの宮崎キャラで、あまり日本人に見えないのが残念だが。

無理にドラマを盛り上げようとかしてなくて、全体に淡々とした描写。
主演の庵野氏の棒読み的台詞回しもなかなか良い感じだ。声優だと声だけで感情を表現しようとするせいか大げさになりがちなんだよな。まあ最近の宮崎アニメじゃそんな心配ないか。
音楽も抑制されてる。もっと控えめでも良かったかな。

テーマ性が前面に出すぎて議論を絵解きしたような映画になっちゃうんじゃないかと危惧してたけど、あまり技術者の戦争責任とかの問題にはふみこまず、達観した引いた視点で人間の業を見つめる感じだ。
といっても突き放しているわけではなくて、どうにもならない人間の悲劇を情を込めて描いている。
歴史修正主義が幅をきかせる昨今、もっとはっきり言ってほしかったって気持ちが無いわけでもないけど、上滑りな議論にまきこまれるより、もっと普遍的なものを描きたかったんだろうな。生きた人間の生活や心情に寄り添うほうが大事だってことだろうな。
でも外国の人にはどう見えるのかな。戦争肯定ではないことはわかってもらえるだろうけど、加害から目を背けて自己憐憫に浸ってると受け取る人がいても仕方ないと思う。日本人の哀しみだって描かれていいはずではあるけど。
日本の戦争映画って昔から、日本人がいかにひどい目にあったかを感傷的に描くものが多くて、宮崎さんとしては長年の葛藤の末にたどりついた境地なんだろうけど、結果としては同じような場所だったのかもしれない。


それにしても零戦開発史に堀辰雄の「風立ちぬ」を組み合わせるってどういう発想なんだ。
軽井沢(?)の場面とか出てきてもまだ信じられなくて、「あ、本当にやるんだ」って感じだった。
やっぱり恋愛部分は木に竹を接いだような感じ。密度が急に落ちてしまい、ちょっとがっかりした。
でもいいシーンもあった。婚礼とかとてもきれいだった。あの儀式は本当にあるのかな。あっても花嫁がざんばら髪ってことは無いよなあ。

あと、当時の日本人が街中で抱き合うなんてことあったんだろうか。想いの強さを表してるのかもしれないけど、宮崎アニメのパターン化された感情表現に見えてしまい、いまいち伝わるものがなかった。
でも全般的に、従来のパターンからはみ出た描写が多くておもしろかった。ちょっとハラハラもした。

なんとなく抱いてる戦前の日本や日本人のイメージって、実際とはかなり違ってるだろうな。自分の知らない時代について先入観で批判するのはよしたがいい。
結核が国民病だった時代の記憶が自分にないから、切迫感が理解しにくいのかもしれない。

背景がリアルで緻密なだけに、「アニメっぽい」人物デザインには違和感が大きかった。
特に主人公がひどい。まあ顔からは目をそらすようにしてたのでそんなには気にならなかったけど。みんなは気にならないのかな。
(まてよ・・・ドラマが淡々として見えたのは顔を見てなかったせいなのか? 実は顔面芝居をしてたのかも)
二郎には特定のモデルがいるのに、似せようとか思わなかったのかな。
もうちょっと民族的特徴にも敬意を払ってほしい。西洋人もたくさん登場するのだしちゃんと描き分けるべきじゃなかったか。外国人が見たら変に思うんじゃないか。
リアルな日本人顔では悲恋物語は無理という判断なのかな。堀越二郎さんのリアルな顔で病気の菜穂子さんを慰めるシーンとか描けば、その方が感動的なんじゃないかという気もするけどな。
もっとも恋愛パートは堀辰雄の領分か。


荒井由実の「ひこうき雲」も意外に合っていた。
良い曲だなあ。キャロル・キングの影響が強いのかな。
バブル期に流行ってたからってユーミンを嫌うのは筋違いだよね。


『風立ちぬ・美しい村』堀 辰雄 著
宮崎さんが映画化すると聞いて2,3年前に読んだ。
アイドル映画になったりもしてたせいで、お涙頂戴の難病ドラマかと誤解していたけど、美しい詩のような小説だった。
私の持っている版には百恵と友和のスチルが印刷されている・・・。


「文藝春秋」 2013年 08月号
宮崎駿と半藤一利の対談が載ってる。「記念対談 『風立ちぬ』戦争と日本人」
歴史に詳しい半藤さんとの対談なので、興味深い昔の話がいろいろと読める。
例によって「この映画が最後」という宮崎さんだが、次に期待が持てそうな結論になるのもうれしい。
宮崎さんが自分の映画で初めて泣いたそうだが、泣いたシーンは意外にも、技術者たちがユンカース社で冷遇されるところだそうだ(御自身の海外での屈辱体験も思い出したかな、と邪推)。
でも初めて泣いたってのは嘘じゃないかなあ。コナンの絵コンテ描きながら感極まって落涙する宮崎さんの目撃談とか読んだことあるけど。完成作では初めてなのか。


『風立ちぬ スタジオジブリ絵コンテ全集19』宮崎駿 著
宮崎さんのマンガのファンなので、アニメが気に入らなかった場合でも絵コンテは毎回楽しみに読んでる。


『大空のサムライ―かえらざる零戦隊』(光人社NF文庫) 坂井 三郎 (著)
零戦についてはわたしはほとんど知らないのだけど、この本だけは読んだ。
日本のエース坂井三郎さんによる迫真の戦記。大変面白かった。
ラベル:宮崎駿 風立ちぬ
posted by 読書家 at 23:26| Comment(0) | TrackBack(0) | 映画 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2013年07月13日

『モンスターズ・ユニバーシティ』 ダン・スキャンロン監督


ピクサーの新作。今回もいまいちだった。
『モンスターズ・インク』の前日譚。『ファインディング・ニモ』の続編も作ってるらしいし、企画力が衰えてきてるのかなあ(とはいえ『ウォーリー』の続編なら見てみたいけど)。

と思っていたら、続編製作を抑制するというニュースが出てた。
http://eiga.com/news/20130709/7/


お話も落ちこぼれ学園コメディの定石通りであまりおもしろくなかった。
ピクサーアニメでこんな学校階級闘争ものなんてみたくないよ。

いまいちという点では去年の『メリダとおそろしの森』もそうだったけど、あっちの方が志は高かったと思う。
森の描写とか、絵としての魅力も大きかったし。

こっちだってモンスターが大挙して登場するんだからもっと絵的におもしろくなってもよさそうなものだけど。
おもしろかったのは図書館のおばさんくらいかな。

もっとも『モンスターズ・インク』が好きな人なら若き日のサリーやマイクに会える喜びがあるのかもしれない。
私はあまり『モンスターズ・インク』に思い入れがないからな。
会社嫌い、学校嫌いの私には合わないシリーズなのかも。




『ウォーリー』の続編なら作ってくれてもいいのになあ。
posted by 読書家 at 00:05| Comment(0) | TrackBack(0) | 映画 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

広告


この広告は60日以上更新がないブログに表示がされております。

以下のいずれかの方法で非表示にすることが可能です。

・記事の投稿、編集をおこなう
・マイブログの【設定】 > 【広告設定】 より、「60日間更新が無い場合」 の 「広告を表示しない」にチェックを入れて保存する。


×

この広告は1年以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。