2012年12月31日

『ホビット 思いがけない冒険』 ピーター・ジャクソン監督


「ロード・オブ・ザ・リング」が苦手なので、「ホビット」の監督がまたもやピーター・ジャクソンに決まったときはがっかりした。見るもんか、と決意を固めていたのだけど、つい見てしまった。私って意志が弱くてだめだなあ。

案の定、あまりよくなかった。でも、どんなにうまく作ったとしても、子供の頃に原作を夢中で読んだ時の感動に及ぶはずはないので、この映画がだめとばかりはいえないかもしれない。
原作ファンの中にも絶賛している人はいるようだし、私には合わなかった、ということだろう。

こんな派手な戦闘シーンあったかな、とか、王様がドワーフに見えないな、とか雰囲気が荘重すぎないか、とか不満が多かった。
もっとも、原作は子供の頃に読んだきりで、ちゃんと憶えているわけではないのだが。
子供の頃好きだった本を大人になって読み返すと、当時の印象が上書きされてしまう恐れがあるので慎重になってしまう。ナルニアでは失敗してしまった。思い出は思い出のままとっておきたい。

あと「ロード・オブ・ザ・リング」の時にも書いた気がするけど、オークが原作より化け物じみて描かれるのは、原作どおりに造形するとだと黒人とアジア人を混ぜたような外見になってしまって今時まずいからかな、と。
『ホビットの冒険』での描写がどうだったか、はっきり憶えてないので的外れかも知れないけど。

なお私が見たのは二D字幕版。
1秒48コマのHFR 3Dで見ると全く違う映画だ、といっている人もいるようだ。
私は3D映画を見てもあまり感心したことがないので2D版で見ることが多いのだけど、3D仕様の映画を2Dでみると、人や物がわざとらしく前に飛び出してきたりして邪魔くさく感じることが多いんだよな。
「ホビット」でも戦闘シーンとか派手なばかりで退屈だったけど、私が金をけちったせいかもしれない。

ジャクソン映画で描かれる中つ国ってどうも好きになれないのだけど、今回は思ってたほど違和感を覚えなかった。慣れてきたってことか。
まずいな、この世界に慣れたくない。
次作からは決して見ないぞ、と決意を新たにした。
でもスマウグが本格的に暴れるところちょっと見たい気もする。あと樽のところとか。
いやいやだめだ。見ないぞ。




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2012年12月29日

『レオン・ラ・カム 』 シルヴァン・ショメ作 ニコラ・ド・クレシー画



『レオン・ラ・カム 』
(作)シルヴァン・ショメ/(画)ニコラ・ド・クレシー/(訳)原正人
(2012年エンターブレイン刊、3,150円)

ニコラ・ド・クレシーの大ファンなのでまた彼のBDを読めてうれしい。

脚本のシルヴァン・ショメは、『ベルヴィル・ランデブー』や『イリュージョニスト』で知られるアニメーション監督。
ニコラ・ド・クレシーは『天空のビバンドム』などの天才漫画家。
二人は短編アニメーション『老婦人とハト』でもコンビを組んでいる。

《内容》
世界で絶賛されたアニメ映画監督シルヴァン・ショメと、不動の人気を博すBD作家ニコラ・ド・クレシーが贈る衝撃作!

毒と秘密と愛を携えて、麻薬のようなおじいちゃんが帰ってきた……。
斜陽の親族企業のもとに、創業者であり、一族の父祖・レオンが数十年ぶりに帰ってきた。
レオンの孫である気弱な青年ジェジェは一度も会ったことのない齢百にも達する奇妙な祖父に、はじめは警戒心を抱くが――。
(エンターブレイン社ウェブサイトより)
http://www.enterbrain.co.jp/product/mook/hobby/10295901


「レオン・ラ・カム」とは「麻薬のレオン」という意味だそうだ。
麻薬のように危ない魅惑に満ちた傑作マンガだ。

お話も皮肉が効いていておもしろいし、当然ド・クレシーの絵もすばらしい。
マジック・リアリズムというのかグロテスク・リアリズムというのか、ラブレー的なのかどうなのか、私にはよくわからないけれど、グロテスクな黒い笑いにみちた幻想奇譚に魅了された。

でもクレシーの絵は、『天空のビバンドム』に比べると随分とあっさりしている。
訳者あとがきによれば、このマンガ以降、濃厚な絵柄をあらためたそうだ。物語を語るにはこちらの方が良いのか。読みやすくはなっている。
『天空のビバンドム』に圧倒されたものとしては残念だ。でも薄まったとはいえやっぱりすごい。特に幻想シーンの異常さは独壇場だろう。

落ち目の化粧品企業を救う取引先として日本人サラリーマンが出てくるのも興味深い。
相当グロテスクに描かれているけど、この漫画でグロテスクでない人などほとんどいない。
怒るより、むしろこの奇妙な世界に参加できたことを日本人の一人として光栄に思う。

続編はさらに奇妙な話だそうだ。アングレーム国際漫画祭の最優秀作品賞を受賞。
どうか訳されますように。元旦のお祈りはこれにしようかな。

訳者後書きによれば、ショメ監督が『ベルヴィル・ランデブー』で、ド・クレシーに無断でクレシー的な背景画を使ってしまったために、二人の仲は気まずくなってしまったのだという。
それで『イリュージョニスト』ではまったく違う絵柄になっていたのか。
あれはあれでよかったけど、ド・クレシーの絵でまたアニメーションを見たいものだ。
私はショメ監督作はこの3本しか見てないが、『老婦人とハト』が一番の傑作と思う。http://umikarahajimaru.at.webry.info/200704/article_5.html


『ベルヴィル・ランデブー』DVD シルヴァン・ショメ 監督
「老婦人とハト」所収。

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2012年12月28日

『レ・ミゼラブル』 トム・フーパー監督

とてもよかった。感動的。
すでに予告編で泣いていたのだが、本編も滂沱の涙。

念のため断っておくと、これはミュージカル映画です。
知らずに見ると、みんな歌ってて驚くかもしれないので。

歌の力をあらためて感じた。
特にコゼットのお母さんが歌う歌とか、思い出すだけで泣けてくる。

アフレコではなく同時録音だそうだ。
感情が生々しく迫ってくるのはそのせいか。
なお舞台版は見てないので比較はできない。

演技も歌もすばらしい。
ラッセル・クロウの歌も、うまいのかどうかわからなかったけど、ジャベールらしく無骨な感じで悪くないと思った。

今までに見たミュージカル映画の中でもかなり好きな方だ。
(ちなみにほかに好きなのは『ジーザス・クライスト・スーパースター』『メリー・ポピンズ』『ナイトメアー・ビフォア・クリスマス』など)

雰囲気的には『オリバー!』を思い出した。
物語性豊かな19世紀文学はミュージカルに向いてるかもしれないと思った。
偶然の出会いとか誇張された性格とか、リアリスティックな映画では難しいかも。
長大な物語を省略する場合も、歌で情報や感情を補えるし。
あれとかあれとかどうだろう。まあ、良い音楽を得られるかどうがが決定的に重要なわけだが。

恥ずかしながらユゴーの原作は途中で挫折した。
確か、子供だ子供だと思っていたコゼットが大人になってしまうところで、がっかりして読む気力を失ったんだ。
当時は大人の女性に関心がなかったので。


サウンドトラック盤

原作、再挑戦するかなあ・・・。



岩波少年文庫の抄訳も出来がいいそうだ。『ノートルダム・ド・パリ』もそうだったけど、本筋と関係ない話が長いんだよな。


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2012年12月22日

『フランケンウィニー』 ティム・バートン監督

とてもおもしろかった。
ティム・バートン監督の映画を心から楽しめたのは何年ぶりだろう。へたすると『バットマン・リターンズ』以来か。まあこれまで期待値が高すぎたんだろうな。

初心忘るべからず。
バートン監督の原点回帰といえる一作。
私自身はモンスター映画にそんなに思い入れはなくて、オマージュもよくわからなかったのだけど、不気味な雰囲気に浸れて楽しかった。(もちろん『フランケンシュタインの花嫁』とか基本的なものは見てるよ、念のため言っとくと)

奇妙なクラスメイトたちや怪物たち。ティム・バートン本領発揮という感じ。
でも一番よかったのはヴィクター少年と犬のスパーキーの友情がきちんとえがかれてること。かけがえのない友情と、それを失っての悲しみ。
こういう真率な感情表現があってこそ不気味な世界も生きるんだと思う。

ラストがあまり好きになれなかったけど、まあ小さいことだ。

しかし犬ってほんとに人間のことを好きだよなあ。見てると涙が出そうになる。人間にそんな価値ないよって言いたくなる。

おや、犬の名前がウィニーなのかと思ってたけど、スパーキーなのか。ウィニーって何だろう。weenieを辞書引いたら「細かく切った牛肉や豚肉を通常薫製にした、なめらかな質感のソーセージ」だって。つまりウィンナーソーセージのことか。確かにそんな見た目だけど。「おたく」みたいな意味もあるらしいけど、どっちかな。

あまりなめらかに動くとCGアニメーションと区別がつかなくなるということで、わざと粗い動きを残したそうだ。それが功を奏してとっても味わい深いアニメーションになった。
『コララインとボタンの魔女』なんかもよかったけど動きがなめらかすぎだった。いや、そこにケチをつけたら申し訳ないけど。

これからもティム・バートン監督には原点を忘れないでほしいな。


余談だけど、トシアキという日系人らしきクラスメイトが出てくるけど、ちょっと目が細めな以外は白人キャラと区別つかない。
日本人はアジア人顔に描かれるのを嫌がるってことを知って配慮したのかな?
宮崎駿の次回作『風立ちぬ』の短い予告編をやってたけど、いつもの宮崎キャラで、とても日本人には見えなかった。女の人なんて髪が青いし。絵的にはあまり期待できない感じ。
むしろ高畑勲監督の『かぐや姫の物語』の方が絵的には意欲的な感じだったな。
「姫の犯した罪と罰」とかいうコピーもちょっと興味そそる。


『フランケンウィニー ビジュアルブック』小学館集英社プロダクション


『ナイトメアー・ビフォア・クリスマス コレクターズ・エディション』(デジタルリマスター版) [Blu-ray]
短編版の「フランケンウィニー」や「ヴィンセント」も収録。


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2012年12月16日

『ムチャチョ ― ある少年の革命』 エマヌエル・ルパージュ 著



第16回文化庁メディア芸術祭マンガ部門優秀賞受賞!
だそうです。
おめでたいですね。どうもありがとうございます。
関係者でもなんでもないけど、一ファンとしてお礼を言います。
ちなみにマンガ部門の大賞は『闇の国々』(感想ページへ)


この『ムチャチョ』もすばらしいBDだった。

ストーリーは感動的だし、絵もとてもきれい。
透明水彩で描かれた美しい画面に見とれた。
外国の漫画は絵柄が苦手、という人もいるようだけど、これは日本人の好みにも合うと思う。
日本の漫画家でいうと安彦良和さんを緻密にしたような感じ・・・?(この種の見立ては不得意だけど)


1976年、中米のニカラグアのが舞台。
長年続いたソモサ独裁政権への民衆の怒りが高まり、サンディニスタ民族解放戦線(FSLN)による解放闘争が拡がっていた。
政府高官の息子ガブリエルは若い修道士。絵の才能を見込まれ、教会の宗教画を描くべく、山岳部の小村に派遣される。
ルーベン神父の導きや村人との交流の中で、彼は多くのことを学び、成長していく。
だが独裁政権による過酷な弾圧は村にも及び、ガブリエルはいやおうなく闘争に巻き込まれていく・・・。

BDって人間を突き放して見るものが多いような気がするけど、これは情感豊かで人間味あふれる描写が魅力的。
悩めるガブリエルには感情移入せずにはいられないし、脇役も一人一人が心情をたくみに描きわけられてる。
波乱に満ちたストーリー展開は胸を熱くさせる。

もちろん革命勢力寄りの視線で描かれるわけだけど、単純な革命賛歌にはなっていなくて、熱狂の中の苦さなんかもちゃんと描かれていると思う。

あと腐女子の方にもおすすめ。
イギリス人の革命闘士は、わたしは『戦場のメリー・クリスマス』のデヴィッド・ボウイを思い出したりしたけどどうだろう。


『ムチャチョ』はガイマン賞2012では第3位に選ばれた。
http://gaiman.jp/result
この賞、私は読んだ冊数が少ないので投票は遠慮したのだけど、投票すればよかったかな。枯れ木も山の賑わいで。
『闇の国々』の1位には異存はないけど、この『ムチャチョ』とかマルジャン・サトラピの『鶏のプラム煮』とか、好きなのが多くて順位は付けにくいな。
こんな投票が成立するほど海外の漫画が訳されるようになるとは感慨深い。


ユーロマンガの解説ページ

BDfile(ベデフィル)のエマニュエル・ルパージュ氏インタビュー動画

以下、アマゾンにリンクを。

『夜になるまえに』
キューバの作家レイナルド・アレナスの波乱万丈な自伝。
「“おれたち”のようなものがキューバでどんな目にあうか知ってるか?」に答えるために。


革命とセクシャリティってことで関連するかな、と。映画版もよかったなあ。
posted by 読書家 at 16:56| Comment(0) | TrackBack(0) | 漫画、画集など | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2012年12月09日

『大きな魚をつかまえよう―リンチ流アート・ライフ∞瞑想レッスン』 デイヴィッド・リンチ 著


『大きな魚をつかまえよう―リンチ流アート・ライフ∞瞑想レッスン』 デイヴィッド・リンチ 著
四月社 2012年刊 1,800円


映画監督デイヴィッド・リンチが、超越瞑想やアートについて語る。

超越瞑想(TM)とは、マハリシ・マヘーシュ・ヨーギーによって西洋社会に広められた瞑想法。
リンチは若いころから超越瞑想法を生活に取り入れ、そこから大きな精神的自由を得、純粋意識の深みに潜ることによって多くのアイデア(大きな魚)を捕まえてきたのだという。
いかに超越瞑想がすばらしいかが語られる。
また映画撮影の裏話なども少しは語られる。
映画についてはごく簡単な記述だけど、リンチの発想法の一端がわかって興味深い。

瞑想の具体的な方法については書いていない。やっぱり・・・。
超越瞑想はインストラクターによる適切な指導が必要で、本で学べることではないらしい。

私が超越瞑想法を知ったのもリンチを通してだったんだっけ。
以前、超越瞑想法の入門書を図書館で借りて読んでみたら、超越瞑想法をマスターすれば人生がこんなにすばらしくなる、とさんざん謳った後、それ以上知りたければここに入会しなさい、と連絡先が書いてあった。

その時は、なんかうさんくさいなあ、と思ってそれ以上は深入りしなかったのだ。

この本もほとんど同じ作りだ。

でも今から考えると、本当に超越瞑想に力があるなら、指導者の適切な導きが必要だとするのは至極まっとうな話だよな。手軽に安上がりに精神を改革しようとする私がよくないのだろう。

ビートルズのドキュメンタリー番組を見ていたら、ジョージ・ハリソンをはじめとするメンバーはマハリシ・ヨギに傾倒してインドに渡ったが、マハリシが金の亡者だと気づいて離れていった、とされていた。
それで先入観をもってしまったのだけど、本書の訳者後書きによればこの話は嘘で、ジョージもポールもリンゴもずっと瞑想を続けていたそうだ。


信じて飛び込んでみるべきかなあ。TMをマスターしたからといってリンチやビートルズのようになれる訳じゃないだろうけど(リンゴが瞑想のおかげで名曲をどんどん作るようになったみたいな話は聞かない)。
多くの芸術家は精神を集中するための独自の方法を持っていて、リンチの場合はそれが超越瞑想法だった、ということなのかもしれない。

でも安らぎが得られるならそれだけでも価値がある。

引っ込み思案のためにずいぶん損しているような気がしている。
学生時代、新興宗教の人に街でしょっちゅう声をかけられていた。人ごみの中でもたやすく見つけられるほど不幸なオーラを発していたのだろう。
もし応じていたらどうなってたんだろう、と時々考える。

まあ瞑想は宗教ではないということだが。
とりあえずは本で学べる瞑想法から試してみるのもいいかな。

http://www.youtube.com/watch?v=F-TY1isvhJs
Stevie Wonder - Jesus Children Of America
スティーヴィー・ワンダーの「神の子供たち - Jesus Children of America」
(アルバム「インナーヴィジョンズ(Innervisions)」収録)は、超越瞑想を歌った曲だそうだ。
歌詞 http://jp.lyricbus.com/uta/kashi/jesus-children-of-america/203989.aspx
posted by 読書家 at 18:20| Comment(0) | TrackBack(0) | ノンフィクション | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2012年12月08日

『メタ・バロンの一族』 アレハンドロ・ホドロフスキー (著), フアン・ヒメネス (画)



メタ・バロンの一族 上・下
アレハンドロ・ホドロフスキー (作), フアン・ヒメネス (画), 原正人 (翻訳)
(ShoPro Books)

 http://books.shopro.co.jp/comic/overseas/metabaron.php

『L'INCAL アンカル』(ホドロフスキー作、メビウス画)のスピンオフ。

『アンカル』の続編というわけではないので、どちらを先に読んでも良いと思う。
いや、こちらを先に読んじゃうと、なんじゃこりゃ、ってなるかな。
まずは正編『アンカル』を読んで、どういう世界か把握してからの方がいいかもしれない。
BDfileベデフィルでメタ・バロンを紹介してくれている。『アンカル』未読の方はまずこちらをどうぞ。

さて『メタ・バロンの一族』
宇宙最強の殺し屋、メタ・バロンの一族の物語。
ギリシャ悲劇に触発されたという、復讐、近親相姦、戦争など、凄まじい暴力に彩られた一大サーガ。

全宇宙を股にかけたストーリーは壮大にして滅茶苦茶。
ワイドスクリーン・バロックってこういうのを言うのかな? 実は定義をよく分かってないんだけど。
父親との対決とか肉体損壊とか、ホドロフスキーらしい試練の物語でもある。『アンカル』では控えめだった残虐描写もひどい。
でも、ここまで何でもありだと、正直どうでもよくなってこないこともない。
もちろん殺伐としているばかりではない。語り手役と聞き手役のロボットの掛け合いも幕間狂言みたいになってて楽しい。ちょっと驚くどんでん返しもある。

やはり見所はヒメネスの絵だろう。
この野放図なストーリーを見事に映像化したヒメネスの画力には驚く。
緻密かつ濃厚。
神秘性とかは感じさせず、あくまで下世話な感じでこの残酷劇を描ききる。
メビウスの絵の方が好きだけど、メビウスの淡泊な絵柄ではここまで表現できなかったろう。
制作方法も対照的らしくて、天才的ひらめきで素早く描くメビウスと、入念な計画のもとに描き込んでいくヒメネス、というところのようだ。

下巻巻末のホドロフスキーのインタヴューでメビウスの仕事ぶりなんかも読めて興味深い。
ホドロフスキーのインタヴューでは映画にも触れている。幼いころを過ごしたチリ北部での経験が元になっている映画を半分撮ったそうだ。最近出た自伝『リアリティのダンス』では幼少年時代の描写がマジックリアリズムのようで面白いらしいので、すごく楽しみになってきた。完成するといいな。
エル・トポの続編を撮るって話も聞いたこともあるけど、触れられてない。ぽしゃったのかな。

上巻巻末にはホドロフスキーやヒメネス自身による解説もたっぷりあってうれしい。




『リアリティのダンス』ホドロフスキーの自伝。
まだ読んでないけど、書評によると、暴君だった父親との葛藤が大きなテーマになっているらしい。自伝なのに魔術的リアリズムで描かれたチリでの幼少年期が読みどころのようだ。
映画やマンガについての話はほとんど無いらしいのが残念だけど。
なお私が読んだ書評は日経新聞の中条省平さんのもの。
http://www.nikkei.com/news/print-article/?R_FLG=0&bf=0&ng=DGXDZO48779610U2A121C1MZC001&uah=DF_SEC3_CA_S1_
柳下毅一郎さんも面白すぎる!と絶賛。http://book.akahoshitakuya.com/post/13/63630521



L'INCAL アンカル (ShoPro Books) [単行本]
アレハンドロ・ホドロフスキー (著), メビウス (イラスト)
こちらも必読。



『エル・トポ』アレハンドロ・ホドロフスキー監督。
最初に見たときの衝撃は忘れられない。


『ホーリー・マウンテン』アレハンドロ・ホドロフスキー監督。


『サンタ・サングレ 聖なる血』アレハンドロ・ホドロフスキー監督。
綾辻行人さんが一番好きな映画に挙げていたな。ところで「サンタ・サングレ」って言葉は「まったく!」みたいな意味でも使うらしいですね。今読んでる漫画『ムチャチョ』によると。



なお『メタ・バロンの一族』は「ガイマン賞2012」の第6位に選ばれた。
ちなみに1位はブノワ・ペータース作 フランソワ・スクイテン 画の『闇の国々』
(感想 http://dokushoburogu.seesaa.net/article/255370353.html
posted by 読書家 at 14:35| Comment(0) | TrackBack(0) | 漫画、画集など | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2012年12月01日

『屍者の帝国』 伊藤 計劃 , 円城 塔 (著)

屍者の帝国
伊藤 計劃 , 円城 塔 (著)
河出書房新社



話題のSFを読んでみた。とてもおもしろかった。

河出書房新社のページ
http://www.kawade.co.jp/empire/

お話
フランケンシュタイン博士による死者再生技術が一般化され、多くの死体が兵士や労働者として使役させられている世界。
1878年、医学生のジョン・ワトソンは、ヴァン・ヘルシングら英国情報部の誘いを受け、アフガニスタンへ派遣される。死者を率いて王国を築こうとしている男を探るために・・・。

ワトソンを始め、架空の、または実在の有名人が多数登場、
『ドラキュラ紀元』とかアラン・ムーアの『リーグ・オブ・エクストラオーディナリー・ジェントルメン』とか思い出した。『リーグ・オブ・・・』には「M」も出てくるし。


登場人物や用語については妄想科學倶楽部で説明をしてくれている。とても重宝した。
http://docseri.hatenablog.jp/entry/2012/08/27/011725

ネタバレになるから誰が登場するかはあまり書かない方がいいか。
でも第一部の早い時期に出てくるからカラマーゾフについては書いてもいいよね。
死者を率いる男の名前がアレクセイ・カラマーゾフ、って出てきたときは、おお!と興奮した。
『カラマーゾフの兄弟』の描かれざる13年後の続編でもあるわけだな。
正直いうと、カラマーゾフに関しては思い入れが深い分、不満もあったが。まあテーマも違うし仕方ない。
クラソートキンがジューチカを甦らせる場面があるんじゃないかと期待したけど、それはなかった。
動物の屍者化は実現できていないとのことだ。
(この前ジューチカについて書いた。http://dokushoburogu.seesaa.net/article/280862242.html

アレクセイの師、ニコライ・フョードロフについては評伝フョードロフ伝も出ているようだけど、読むの大変そうだな。
私は亀山郁夫著『カラマーゾフの兄弟』続編を空想する (光文社新書)で知ったんだったかな。ドストエフスキーにも大きな影響を与えたそうだ。
ブログに感想書いた本だと『アレクサンドルII世暗殺』エドワード・ラジンスキー著が関係ありそうだな。 http://dokushoburogu.seesaa.net/article/115285239.html

あと、第一部には『闇の奥』とかキプリングの『王になろうとした男』も重ねられてるんじゃないかと思った。

ちょっと残念だったのは文体かな。ラノベ的、といったらいいすぎだけど、なんか今風で、ワトソンが書いたとは思えなかった。まあワトソンが書いたわけではないからいいのか。

ラベル:屍者の帝国
posted by 読書家 at 23:55| Comment(1) | TrackBack(0) | SF,ファンタジーなど | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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