2012年06月29日

『華氏451』 フランソワ・トリュフォー 監督

『華氏451』
原題 FAHRENHEIT 451
製作年/国 1966年/英=仏
監督 フランソワ・トリュフォー
出演 オスカー・ウェルナー、ジュリー・クリスティ、シリル・キューザック、アントン・ディフリング



先頃亡くなったレイ・ブラッドベリの追悼のつもりで、初めて見た。
ブラッドベリのディストピアSF『華氏451度』をトリュフォー監督が映画化。

華氏451度とは書物が発火する温度のことだ。
すべての本が禁止された未来社会。消防士の仕事は、本を探し出して焼くことだった。
消防士モンタークは、ある日ディケンズの『デイヴィッド・コパフィールド』を読んでしまい、徐々に本の魅力を知っていく。また女教師のクラリスとの出会いをとおし、本を愛するブック・ピープルと呼ばれる人々の存在を知る・・・。

とても良かった。本好きならば涙無くしてみられないだろう。
ブラッドベリにふさわしく、詩情あふれる名品だ。

もっとも、トリュフォー監督作としては異色のSFで、失敗作という人も多いらしい。
私にとっては、今まで見たSF映画の中でも、心の名作、としてずっと残っていく映画のひとつになると思う。

たくさん登場する本の題名をいちいち確認しながら見たので時間かかってしまった。
ドン・キホーテ、ロリータ、カラマーゾフの兄弟、チャップリン自伝、などなど。

ブック・ピープルが湖畔を漂い歩く場面の美しさ。
『火星年代記』さんも登場する。



山田 宏一氏の『フランソワ・トリュフォー映画読本』に『華氏451』についてのトリュフォーのインタヴューが載っていた。

トリュフォー自身はこの映画を必ずしも気に入ってないようだ。
少なくとも自分の資質とはかけ離れていると感じているらしい。
「あの映画の真の主役は書物なのです。それがあの映画の欠点にもなっています。つまり、人間的なあたたかみのない映画になってしまった。」
「わたしは女性に恋するように、書物の美しさ、価値、神聖さ、おそろしさ、そして書物に対するわたしの深い愛を描いてみたわけです。」

トリュフォーはSFが大嫌いだと明言している。
フリッツ・ラングの『メトロポリス』も嫌い、『アルファビル』もゴダール作品の中では唯一好きになれない、というから徹底している。児玉清かトリュフォーか。
ただしブラッドベリは好きで、「ブラッドベリほど人間臭いSF作家はいない。「華氏四五一度」と「火星年代記」は、その意味での大傑作だと思います。」

英語が話せないトリュフォーは、イギリスでの英語撮影で相当苦労したそうだ。
スタッフやキャストとコミュニケーションがとれず、孤独に悩んだ。
特に主演のオスカー・ウェルナーのエゴイズムには苦しめられ、そのせいもあって、モンターグは当初の予定より悪辣で狡猾な人間として描かれることになったとか。

主演は当初ジャン=ポール・ベルモンドになるかもしれなかったが、フランスでは製作資金を得られず断念したとか。

女優のジュリー・クリスティのことは絶賛している。奥さんと女教師の一人二役だったって気付かなかった。

なおトリュフォー自身が「書物人間」になるとしたら何になりたいか、との問いに対し、ジャック・オーディベルティの「マリー・デュボワ」になりたいと答えたそうだ。「狂気の愛を描いた美しい小説」とのこと。読んでみたいけど翻訳はあるのかな。さっき検索したところ出てこなかった。


『ある映画の物語』フランソワ・トリュフォー 著 山田宏一 訳

トリュフォーによる『華氏451度』の撮影日誌。
アラン・レネに「ジャン・コクトーの『美女と野獣』の撮影日記とならぶ傑作」と評された。
撮影現場では惨めでさびしかったので、映画的創造力が日誌に向かってしまったとか。
まだ読んでないけど、図書館で借りてきた。
巻末に、ブラッドベリによる「映画『華氏451』を見て」というエッセイが載っていた。
「わたしは映画を見た。そして、心から愛した。」
よかった・・・。
晩年は自作の映画化を了承しなくなったと聞くけど。


原作小説。中学生の頃に初めて読んだブラッドベリ作品だ。
久しぶりに読み返したくなった。

posted by 読書家 at 23:13| Comment(0) | TrackBack(0) | 映画 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2012年06月23日

『スノーホワイト』 ルパート・サンダース監督




 点数:70点(100点が最高)

白雪姫のお話をダークファンタジーとして映画化。

白雪姫が軍隊の先頭に立って自ら戦ったりもするけど、お話の骨子は意外と原作を生かしている。
継母、毒リンゴ、7人のこびと、など基本要素は押さえていて、この事件が語り継がれて「白雪姫」になりました、みたいな線を狙ったのかもしれない(原話では継母ではなく実母らしいが)。

監督のルパート・サンダースさんはCM出身の新鋭だそうで、まあ予想されたとおり、映像はかっこいいがお話はよくない、というありがちなことになってしまった。
良い脚本に恵まれれば傑作を作るかもしれない監督のリストにまた新たな名前が加わった(リストは長くなる一方なのに傑作はなかなか増えないのだが)。

とは言え、これ見よがしな鮮烈な映像とかはなくて、抑制のきいた正攻法の描き方で、好感が持てた。
森の神秘の描き方とか特によかった。(ちょっともののけ姫っぽい?)
個々の要素はなかなか良いんだけど、その場限りで、大きな物語のうねりにつながっていかないのが残念。
魔女側も単なる悪役ではない複雑な背景をもっていそうな雰囲気を漂わせてはいるが、表面をさらっとなでるだけだった。
大体において雰囲気だけなので、見る側が想像力で補う必要があると思う。

というわけで人にお薦めはしないが、私はダークファンタジーの雰囲気に浸れたので結構満足した。
暗くて重い話がすきなのだ。

クリステン・スチュワートに再会できたのもうれしかった。『アドベンチャーランドへようこそ』を見て好きになったのだ。『トワイライト』の主演ですごく有名な女優だと知ってちょっとがっかりしたけど。
『トワイライト』はテレビでダイジェスト版を見ただけなので何とも言えない。・・・ダイジェスト版だったのかな? 展開が異様に速くて、最近の若者向け映画はこうなってるのか、と驚いたけど、2本をひとつにまとめてたんじゃないかと思う。特別編集版!とかうたってたけど。
世界一の美女役としてクリステン・スチュワートでいいのか、という意見もあるだろうが、鏡さんの好みでは一番なんだろう。閉ざされた狭い世界で、人口も少なそうだし。
(シャーリーズ・セロンより明らかに美しい女優だと差し障りがあったのかも)

ターセム監督版の白雪姫『白雪姫と鏡の女王』(公式ページへ)の予告編も昨日やってたけど、ハリウッドではおとぎ話の映画化が流行っているらしい。
あんまり心惹かれなかったけど、この『スノーホワイト』を見ると、きちんと作れば面白い映画ができるかもしれないなあと思った。でもパロディっぽいのが多くなるんだろうな。パロディもシュレックくらい面白けりゃいいけど。


『グリムのような物語 スノウホワイト』
諸星大二郎もスノウホワイトを描いている。ホラー風味。
確かに、三度殺され三度生き返る白雪姫とか、死体愛好者の王子とか、原作自体が怖いね。

白雪姫の書き換えは他にもいろいろありそうだけど、思い出せるのは、『大人のための残酷童話』(倉橋由美子)くらいだな。アンジェラ・カーターも書いてたっけ?
あ、最近だとニール・ゲイマンの「雪と鏡とりんご」 が面白かった。ここで読めるみたい。英語。  http://www.holycow.com/dreaming/stories/snow-glass-apples/
posted by 読書家 at 23:57| Comment(0) | TrackBack(0) | 映画 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2012年06月17日

「チェーザレ 破壊の創造者」 惣領 冬実 著

「チェーザレ 破壊の創造者」
惣領 冬実 著




チェーザレ・ボルジアを描く本格的な歴史マンガだ。

WOWOWで「ボルジア家 愛と欲望の教皇一族」というドラマが始まったので、これを機に、と思って読み始めた。評判も良いようだし。

9巻まで出てるようだけど、とりあえず5巻まで読んだ。

私はチェーザレ・ボルジアについては高校で習った程度にしか知らないので、興味深く読んだ。勉強になる。
とてもよく調べてあって、専門家を交えて原語の資料まで渉猟している。事実関係を突き詰めた上で、もっとも妥当と思われる説を採る、という方法。

歴史物を読んだり見たりするときって、この時代にそんなわけないだろ、と突っ込みたくなることが多いけど、その点安心して読める。
15世紀のピサでこんな現代人みたいな議論があったのかなあ、と疑問に感じたところもあったんだけど、当時の一次資料とかまで参考にして描いているらしいので、私の方が間違ってるに違いない。

絵もきれいだ。横顔の下唇あたりの描き方とか好き。背景も良い。絵画などを参考に、当時の町並みまで再現しようとする姿勢もすばらしい。

ただ学習マンガとしてはいいとしても、マンガとしておもしろいかというと、今のところそれほどでもない。
まだ1491年でチェーザレは学生にすぎないので、あまり動きがないのは仕方ないか。陰謀が本格的に動き出すのは翌年のコンクラーベあたりかららしいので、これからが佳境に違いない。

あと台詞が説明的すぎると思った。人間関係とか社会背景とかをすべて登場人物が台詞で説明するので、会話があまりにも不自然だ。登場人物が書き割り的で生き生きしてこないのはそれも一因では?
説明はナレーションで処理した方が良いような気がする。(マンガの場合も"ナレーション"でいいのかな)

5巻までかかってまだ1年分も描かれてないんじゃないかな。
このペースだと相当な大河マンガになりそうだけど、これは読み続けたい。

Ego sum Papa.jpg
チェーザレの父親ロドリーゴ・ボルジア(アレクサンデル6世)を悪魔として描いた16世紀の彫版画
ego fum papa「私は教皇である」

WOWOWでやってる「ボルジア家 愛と欲望の教皇一族」はかなり扇情的でおもしろい。
1492年のインノケンティウス8世崩御の場面から始まって、権力争いが激化していく。
西洋版「苦肉の計」で、ミケロットをチェーザレが鞭で打つ場面がある。「もっと強く打ってください!」
いや、だからどうって訳じゃないけど、喜ぶ人もいるかと思って・・・。すみません。

歴史考証的にはどうなのかな。マラリアで死んだ人について「蚊に殺されたの?」とルクレチアが聞く台詞が出てきたけど、蚊がマラリアの原因だってことは知られてたんだろうか。
「マラリア」の語源は古いイタリア語で「悪い空気」の意味だそうで、中世イタリアでは沼地の瘴気が病気の原因と思われてたって聞いたけど。マラリア原虫を蚊が媒介するってことがわかったのは19世紀末のはずだ(『カルカッタ染色体』って小説を読んでマラリアにちょっと詳しくなったので、ここぞとばかり攻める)。
まあ知られてたのかもね。科学的にはともかく、蚊が関係してるらしいってことは前から気付いていたのかも。

イマジカBSでも「ボルジア 欲望の系譜」というドラマを放映する。これもロドリーゴが主人公らしい。
http://www.imagica-bs.com/borgia/
先行放送をちょっとだけ見たけど、こちらも1492年から始まるようだ。
ピサ大学の教室でチェーザレとジョヴァンニ・デ・メディチが向かい合うシーンは、マンガ読者にはちょっとうれしかった。
wowow版はニール・ジョーダン、イマジカBS版はオリヴァー・ヒルシュビーゲル(「ヒトラー 〜最期の12日間〜」)と映画監督がかかわっている。
どっちも楽しみだけど、同時期に二つってなぜ? ボルジア家ブームなのか。
いまはBSフジで「三国志」を毎日見なければいけないのに、ドラマ漬けになってしまうな・・・。

それはともかく、早くGame of Thrones を日本でも放送してほしい。
(これから機会があるごとに言うことにしよう))

posted by 読書家 at 18:45| Comment(0) | TrackBack(0) | 漫画、画集など | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2012年06月12日

『ロボット』 シャンコール監督

監督 シャンコール
出演 ラジニカーント アイシュワリヤー・ラーイ

インドのSF映画は初めて見る。インド映画自体10本くらいしか見たことない気がする。

世界で大ヒットしたという『ロボット』。
正直言うと、見る前は不安もあった。異文化への許容度を試されるような体験になるんじゃないかなあと。

見てみると、普通におもしろかった。というか、かなりおもしろかった。

ストーリー
科学者バシー博士(スーパースターのラジニカーント)は最強の人型ロボット(ラジニカーント二役)を生み出す。しかし人の心を理解できないロボットは問題を引き起こす。バシー博士はロボットに感情を教えようとするが・・・


ど派手なアクション、パロディ、ダンスシーン、と盛りだくさん。最後は何となく感動もした。

ただアクションシーンは、スローモーションのかけどころがちょっとずれてないかな。
そんなにクオリティが高いとは思わなかった。
でも最後の組み体操バトルは最高だった。

あと蚊のところとか大笑い。

緩い感じがちょっと「ゼブラーマン」とか思い出したけど、あれよりだいぶおもしろい。

私が見たのは日本人向けの短縮バージョンだけど、これならもっと長くても良かったな。
完全版も公開中。
http://movie.goo.ne.jp/contents/news/NFE201206060006/index.html
でもカットされた40分の全部がミュージカルシーンなんだとしたら、私にはちょっと無理かも。

もっともミュージカルシーンも楽しかった。ただラジニカーントが自ら踊っているためか、あんまりすごくない。さっきまでの超人的な動きはどうした。

世界一の美女という人もいるアイシュワリヤー・ラーイは確かに美女だった。
銀色スーツの未来人風ダンスシーンが良かった。
ポスターとか見たときは、この銀色美女がロボットなのかと思って結構わくわくしてたんだけど、ここは夢というか幻想のシーンだったんだね。アンドロイドも夢をみるんだね。

このクオリティの映画がたくさん作られてるんなら、娯楽映画市場の一角をインド映画が占めるようになる日も遠くないかも。


インドのSF事情はどうなってるのかな。ぜんぜん知らないけど、何かすごいものが出てくるんじゃないかって予感も抱かせてくれる。
インド系作家によるSFだったら、『カルカッタ染色体』の感想を前に書いた。蚊が重要な役割を果たす点でもこの映画と共通する・・・と無理やり結びつける。


インドが舞台のSF短編集『サイバラバード・デイズ』が出た。
SFマガジンに訳載された「ジンの花嫁」を読んだはずだがよく憶えてない。でもイアン・マクドナルドは好きな作家なので楽しみだ。
タグ:ロボット
posted by 読書家 at 23:39| Comment(0) | TrackBack(0) | 映画 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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