2012年01月09日

『エデナの世界』メビウス著



『エデナの世界』原タイトル:Le Monde d'Edena
 メビウス(Moebius) 著 原正人 訳 TOブックス刊行

アンカル以後のメビウスの代表作。
近ごろ外国のマンガが続々と訳されていて、貧乏人には嬉し痒しの日々が続いている。
『エデナの世界』は、メビウスのファンなら麦を食ってでも買っておきたい長編代表作だ。
フランス原書では本編5巻にスピンオフ1巻の計6巻で出版されたものを、一冊にまとめて邦訳された。

二人の宇宙飛行士が不思議な惑星エデナで冒険する、というSF。
シナリオもメビウス本人が担当している。めずらしく一貫したストーリーがあるので入りやすい。

とは言え、やはり主役は絵だろう。
巻ごとにかなり絵柄が変わるので、多彩な画法が楽しめる。
とりわけ第3巻の色使いが絶妙なのだが、なんでこれだけ違うのかな。メビウス本人が彩色したってことなのかもしれない。
巻末で二人の漫画家(浦沢直樹氏と夏目房之介氏)が対談しているのだけど、礼賛するばかりであまり具体的なことを語ってくれないのが残念。技法とか、プロらしい意見を聞きたかった。

残念ついでにもう一つ言うと、フランス原書では各巻の巻末に解説が付いているそうだから、それも訳してほしかった。本編を読めばわかる、というマンガでもないので、解読の手がかりがもっとほしい。
また『エデナの世界』の世界を描いた一枚絵ももっとあるはずなので、大判で収録してほしかった。

ストーリー自体は特に難解というほどでもなく、読み進めるのに障害はないのだけど、何を言いたいのかよくわからなかった。
深い意味があるのかもしれないし、単なる思いつきで書いたのかもしれない。麻薬はもうやめてたんだっけ。
やはり絵を楽しめばいいマンガなのだろうか。結論は控えておく。
内面世界と外的世界が入れ子構造のようになっていて、互いに影響し合っていたりする。
アルザックにも似たようなエピソードがあったし、メビウスにとって重要なテーマなのかもしれない。

ユーロマンガ Vol.3に「エデナの世界」スピンオフ作品が掲載されてた。
http://www.euromanga.jp/title/reparations/697

メビウス(ジャン・ジロー)のオフィシャルサイト


ユリイカ誌のメビウス特集号
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2012年01月04日

『リヴァイアサン クジラと蒸気機関』スコット・ウエスターフェルド 著



『リヴァイアサン クジラと蒸気機関』
 スコット・ウエスターフェルド 著
 小林美幸 翻訳
 早川書房(新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)


2010年ローカス賞ヤングアダルト部門受賞
2010年オーリアリス賞ヤングアダルト部門受賞

これは楽しい。
「テメレア戦記」や『移動都市』に近い味わいの冒険ファンタジーだけど、その中で最もおもしろかった(シリーズ全巻は読んでないけど)。

改変世界における架空の第一次世界大戦を描く冒険スチームパンク。三部作の第一作。

ダーウィンが19世紀半ばにDNAを発見し、遺伝子操作が可能になった世界。

物語の舞台は20世紀初頭のヨーロッパ。イギリスをはじめとするダーウィニズムを信奉する国々では、遺伝子操作により新種生物を次々と作り出し、乗り物や兵器として使用していた。
一方、ドイツなど遺伝子操作を拒否する国々はクランカーと呼ばれ、機械工学を発達させて対抗し、歩行戦闘機械などが作られていた。
1914年、オーストリア・ハンガリー帝国の大公夫妻がサラエヴォで暗殺されたことをきっかけに、両陣営の間に戦争が勃発する。
大公夫妻の息子アレクサンダー公子は、皇位継承権をめぐる陰謀から命を狙われ、数名の家臣と共にウォーカーに乗り込んで逃亡する。
イギリスでは、空を飛ぶことにあこがれる少女リデンが、男の振りをして士官候補生になり、クジラを改造した巨大飛行獣リヴァイアサンに乗り込む。
やがて遭遇する二人。
だが拡大する戦火は否応なしにに彼らを飲み込んでいくのであった。


これほど「絵になる」小説も珍しいだろう。
体内で水素を生成して空に浮かぶ巨大クジラ。伝言トカゲ、 六脚に二つ鼻の水素探知獣など、奇怪で魅惑的な新種動物が跋扈する世界。それがパワードスーツ的な戦闘機械と絡み合うのだから。ツェッペリン号など実在の乗り物も登場。楽しさ満点。

キース・トンプソン氏による挿絵の魅力も大きい。
http://www.keiththompsonart.com/gallery.html
ホームページでたくさん見ることができる。特にカラーイラストが良い。

http://www.youtube.com/watch?v=PYiw5vkQFPw&feature=youtube_gdata_player
ユーチューブなどで、キース・トンプソンの絵を元にしたトレーラーを見ることができる。
これがもっと本格的にアニメーション化されたら見てみたいな。
最近のCGアニメーションは本物っぽい映像を作ることにはずいぶん発達してきてるけど、手書きのタッチまで再現できるようになれば無敵だろう。

なお邦訳版の表紙絵はPablo Uchida氏が描いてる。これはこれで、懐かしい少年SFみたいな感じで好き。Uchida氏のホームページで、制作過程を見せてくれている。
明朗なヤングアダルトSFの雰囲気を伝えているのはむしろこっちの方かも。キース・トンプソン氏の方はねちっこい感じ。

設定倒れではなく、ストーリーやキャラクターも魅力十分。
少年と少女の成長と友情がきっちり描かれる(と思われる。一作目なのでまだ片鱗だが)。
男装の少女デリンは内心の声までべらんめえ調の男言葉なので、今で言う性同一性障害か?とも思ったけど、そういうわけでもなさそうだ。
宮崎アニメにも通じるまっとうなヤングアダルト向けの冒険物語だ。宮崎さんが宮崎アニメらしい宮崎アニメを作ってくれなくなった今、寂しさをまぎらすのにもいい。

三部作の後半の方が評判がよいようだ。
日本も参戦するらしい。日英同盟があるからダーウィニズム側かな。明治維新以降、欧米列強に追いつくため遺伝子操作技術を学んできたのだろう。
楽しみなシリーズだ。

新☆ハヤカワ・SF・シリーズのページ
スコット・ウエスターフェルドのホームページ
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2011年12月30日

『忘れられた花園』ケイト・モートン 著



『忘れられた花園』
ケイト・モートン 著, 青木純子 訳
東京創元社 刊


点数:82点(100点が最高)

昨日ミステリチャンネルの闘うベストテンをみたら、これが一位に選ばれていた。
ミステリのつもりで読むと物足りなく感じると思うけど、ゴシック・ロマン風の魅力的な小説だ。

『秘密の花園』とかブロンテ姉妹とか『レベッカ』とか、私好みの小説が引き合いに出されて紹介されてるので、興味を引かれて読んでみた。(レベッカは映画で見ただけで読んでないけど)


20世紀初め、イギリスからオーストラリアの港に到着した船に、小さな女の子が乗っていた。彼女は記憶を無くし、誰の子ともわからなかった。オーストラリアで養子として育った彼女は、やがて、自らの出生の謎を探るべくイギリスに渡る。手がかりは、唯一の持ち物であったスーツケースに入っていた子供向けの本。
彼女はやがて古い貴族の家を探し当てるが、その家には忌まわしい秘密があるらしかった・・・。

100年余りにわたる歴史が、三人の女主人公を通して重層的に同時進行で描かれる。

ミステリとして読むといまいちかな。主要な謎は、途中であらかた想像が付く。
古いイギリス小説の雰囲気を楽しむべき小説だと思う。ディケンズ風のところもあるし。

私はイライザやローザを描く100年前のパートが特に面白かった。というか、そこだけでよかったんじゃないかと思う。

正直言って、こんなに重層的な語りの構造にする必要があるのか疑問に思った。
ネルと孫のカサンドラは、同じようにオーストラリアからイギリスに渡って調査するわけだけど、似たような目的で同じような人たちと出会うので、しばしば混同してしまった。
現代を20世紀初頭に結びつけるために無理したんじゃないかって感じがする。謎を解明する役が一人いれば十分じゃないのかな。

あと残念に思ったのは、一番読みたかったイライザとローザの子供時代がほとんど描かれないこと。二人が友情を深めていくところが無いと、後半も生きないような気がするんだけど。


とても楽しく読んだのだけど、訳者あとがきでも書かれているように、あくまで軽いエンタテイメントだと思う。
もちろん、それがいけないわけじゃ全然ないけど、過剰な期待を抱かせるような紹介のされ方もしてるので、がっかりしないよう注意した方がよいかな、と、ちょっとけちをつけてみました。

『秘密の花園』とかブロンテ姉妹とか『レベッカ』とかを未読の人は、まずはそれを読みましょう。
私もレベッカを読まなくちゃ。

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2011年12月17日

『東方綺譚』 ユルスナール著




『東方綺譚』
マルグリット・ユルスナール 著
多田 智満子 翻訳
白水社(白水Uブックス)

点数:90点(100点が最高)


フランスの作家ユルスナールによる幻想的短編集。
中国、日本、インド、ギリシア・・・。
東方世界の神秘が見事な文体で描かれる。

「珠玉の名品」という表現はこういう作品に出会ったときのためにとっておきたい。
一気に読んでしまうのが惜しくて、いとおしみながら一日一篇ずつ読んだ。

繊細きわまるものから民話以前といった粗削りな感じのするものまで。
日本代表として「源氏の君の最後の恋」。晩年の光源氏を描いた皮肉な作品。原典もこんな感じだったら読むのになあ、と思うほど見事。(原典もきっと見事なんでしょうけど)

多田智満子さんによる翻訳の力も大きいと思う。

訳者後書きによると、初版にあった「クレムリンの囚人」は、作者の気に入らず削除されたそうだ。
これもどなたか訳してくれないだろうか。
ユルスナールの高度な美意識では不出来とされたものでも、私の美意識ではきっと区別できないだろうから。

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2011年11月23日

今日の気付き

テレビで『ミツバチのささやき』を見た。
中学生の頃に一度見たけど、こんなにもいい映画だとはわからなかった。

黒田硫黄の「南天」に、日本軍相手の切り札として人造人間ドン・ホセが出てくるけど、これが『ミツバチのささやき』からの引用だってことに初めて気付いた。
小学校での理科の教材用の人形で、呼吸も食事もできるけど目がないドン・ホセに、アナが目を入れる。

黒田硫黄は好きな漫画家だけど、こんなことはすべきじゃないんじゃないかなあって気もした。
ほかの映画ならいいけど、『ミツバチのささやき』は。


明日は『エル・スール』を放送する。

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2011年11月16日

『タンタンの冒険 ユニコーン号の秘密』スティーヴン・スピルバーグ 監督

『タンタンの冒険/ユニコーン号の秘密 』
 スティーヴン・スピルバーグ 監督
 エルジェ 原作


「2Dで十分ですよ。わかってくださいよ!」
というフレーズが『ブレードランナー』を見ながら頭に浮かんだので、記録としてここに書いておく。

それはともかく、『タンタンの冒険/ユニコーン号の秘密 』を試写会で見た。
2D字幕版で。
ついにスピルバーグが3Dに進出!というのが売りの映画なので3Dで見たかったけど、試写会に当たってしまったので仕方なく見に行った。
おもしろかったらもう一度3D版で見ればいいや、と思って。
ちなみに今まで、3D版でもう一度見た映画は『ヒックとドラゴン』だけ。あれは良かった。

「ブラタモリ」で東京の中野を取り上げたばかりで、行きたいな、と思ってたところへ、試写会場が中野だったのもよかった。
徳川綱吉の時代に巨大な犬小屋「御囲い」があった街なのだそうだ。
今では犬屋敷の痕跡はほとんど無いが、細い路地が走るなかなか魅力的な街らしく思われた。
おたくの殿堂という中野ブロードウェイにも初めていって、散財してしまった。

前置きというか関係ない話が長くなったけど、『タンタンの冒険』の感想も書こう。

なかなか楽しい冒険映画だった。

少年記者のタンタンは、蚤の市で、伝説の軍艦ユニコーン号の模型を手に入れる。だが模型には秘密が隠されていた。タンタンは愛犬スノーウィとともに、秘密を狙う悪者との戦いに挑んでいくのであった。

インディー・ジョーンズの少年版みたいな、謎あり冒険ありのアクション映画。笑いも十分。ロマンスは無いけど友情はある。

エルジェによる原作マンガは1冊読んだきりで詳しくないので比較とかはできない。
タンタンの背景とかは描かれないので、ただ冒険するためだけに存在するキャラクターのような感じがした。
そのかわりハドック船長の、海賊の秘宝をめぐる因縁話とか、酒で身を持ち崩す話とか、個性が際立ち大いに盛り上がる。


フルデジタル3Dパフォーマンス・キャプチャーと呼ばれる最新技術で作られたそうだ。
ロバート・ゼメキスが執着してた技術だっけ。
なにか新しい映像体験を期待すると、がっかりするかもしれない。
きっと高度な最新映像技術が使われているのだろうけど、素人目には、そのすごさはわからない。
特にエポックメイキングな感じはしなかった。

正直言って、原作の絵を生かして手書き風アニメーションにした方が良かったんじゃないかって気がするけど・・・。それだとカートゥーン・ネットワークとかでやってるのがあるか。
どうも中途半端にリアルで、マンガっぽいアクションとリアルな背景や動作がマッチしてないように見えた。
アニメーションならではの動きの魅力につながらないで、なんかもたついて見えた。特にハヤブサが絡むワンシーンワンカット(だった?)のアクションなんか、段取りどおりやってます、って感じでどうも躍動しない。
もっとも船での戦いとか、とても迫力あるいいシーンもあったし、この技術自体の問題では無いと思うけど。

かなり3D特化仕様な感じなので、2Dではわからないところもあるかもしれない。
これから見る人には3D吹き替え版をおすすめする。
もう一度高額な料金を払ってまで3Dでみなおしたい、と思うほどの魅力は感じなかったかな。

スピルバーグのSFや冒険映画を結構待ち望んでたんだけど、もうこういうのは作らなくてもいいかな、とちょっと思った。



この映画の原作はこの3冊だそうだ。
「なぞのユニコーン号」「レッド・ラッカムの宝」「金のはさみのカニ」

リンク
福音館書店の「タンタンの冒険」ページ
映画『タンタンの冒険』公式サイト

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2011年11月13日

『二流小説家』 デイヴィッド・ゴードン 著



二流小説家 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)
デイヴィッド・ゴードン 著, 青木千鶴 訳

点数:81点(100点が最高)


アメリカ探偵作家クラブ賞最優秀新人賞候補作。

ポランスキー監督の映画『ゴーストライター』がおもしろかったので、似たような感じだといいな、と思って読んでみた。
似てなかったけど、これはこれでおもしろい。
『ゴーストライター』は英国元首相の自伝を書くゴーストライターのお話だったけど、こちらは連続猟奇殺人犯の告白録を書くことになった作家のお話。

語り手ハリー・ブロックはしがない小説家。いくつものペンネームで、SF、ミステリ、ヴァンパイア小説などジャンル小説を書き分けている。
そんな彼の元に、服役中の連続殺人鬼からの手紙が届く。
ハリーが書いたポルノ小説のファンだという殺人鬼が、告白録の共著者として彼を指名してきたのだった。
この仕事が成功すれば、有名作家の仲間入りも夢ではない。
しかしその仕事には条件が付いていた。殺人鬼を崇拝する女たちを訪ね、女と殺人鬼を主人公とするポルノ小説を書くこと。
女たちを訪ね始めたハリーは、やがて大きな事件に巻き込まれていくのであった。


ユーモアあふれる軽快な展開。
特に序盤の、匿名作家ならではのドタバタぶりがおもしろかった。
ジャンル小説好きなら特に楽しめるはず。

たとえば、ヴァンパイア小説の著者は中年女で無ければいけないそうで、女の振りをして書いたはいいけど、著者近影の撮影に大苦労する。母親を替え玉にしたり、自ら女装したり。
読みながら始終にやにやしてた。

押しかけアシスタントの女子高生とのやりとりも楽しい。
主人公はじめ登場人物に魅力がある。

後半のサスペンスやどんでん返しもなかなかのものだけど、正直、もう終わりにしてもいいんじゃないの、と思いながら読んでいた。意外な事実はいろいろ明らかになるけど、ちょっと付け足し感があると思った。

小説をめぐる談義も興味深い。

語り手が自ら「信頼できる語り手」と名乗るくらいなので、その点は安心して読んでいたんだけど、最後の方でなんかメタっぽい感じも出てくる。あれは何だったんだろう。注意深く読めばわかるようになってるのかな。それとも続編への布石?





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2011年11月05日

宮崎駿『本へのとびら 岩波少年文庫を語る』より

本へのとびら――岩波少年文庫を語る (岩波新書)〈アマゾンへ)


宮崎駿 著『本へのとびら 岩波少年文庫を語る』を読んだ。

宮崎駿が、長年親しんできた岩波少年文庫から50冊を選んで推薦文をつけた非売品の小冊子「岩波少年文庫の50冊」(2010年)を元に、それについてのインタビュー、そして3月11日震災後のインタビューをまとめ、加筆したもの。

私は3月11日震災後、しばらく本を読む気が起こらなかったのだけど、唯一、子供の頃好きだった本を読み返したい、とけっこう痛切に思った。実際は暇がなくて読めなかったけど。
子供の頃の読書体験が自分にとってすごく大切なものなんだなって改めて思った。
そんなわけで、尊敬する宮崎駿が子供の本について語る、というのは、私にとってとてもうれしい本だ。
挿絵もたくさん転載されているので、見ても楽しい本にもなってる。

後半のインタビューもなかなか読み応えがあった。宮崎さんの子供時代の読書体験、学生時代の「児童文学研究会」について、挿絵の魅力、石井桃子さんや中川李枝子さんのすばらしさについて、など。
3.11震災後のインタビューでは、アナーキーでニヒリストだった父親について、関東大震災や東京大空襲について、次回作について、恐ろしい風が吹き始めた時代をどう生きるか、といったことが語られる。

岩波少年文庫の50冊のうち、半分くらいは読んだこと無いものだった。
その中で読みたくなった本をいくつかメモしておきたい。
引用は適当です。

『ぼくらはわんぱく5人組』 カレル・ポラーチェク 作
宮崎さんは中川李枝子さんに薦められて読んだそうだ。著者のポラーチェクはアウシュビッツで殺された人だとか。
恐ろしい風が吹きはじめた今の時代と、「同じ風のなかで書かれた」と宮崎さんは語る。
「放射能をはらむ風が窓の外の樹々を吹き荒れているのを見ているうちに、今、もう一度『ぼくらはわんぱく5人組』を読まなければならないと思いました。」

『チポリーノの冒険』 ジャンニ・ロダーリ 作
お話も面白いけど、挿絵に大きな影響を受けたそうだ。
「描いているといつの間にかスチェエーヴァの絵のようになっちゃうんですよ。こういうデフォルメーションの仕方というのは、とても面白かったですね。チポリーノの眼も、とても小さく描いてあります。すっかり好きになってしまって、マンガ家になる野心をすてるきっかけになりました。この描き方では、日本のマンガ界では仕事がないと分かってましたから。」
というくらい影響を受けたそうだ。それならなんで宮崎アニメの人物はあんなに眼が大きいんだろう。

『飛ぶ教室』 エーリヒ・ケストナー 作
「子供の時、ぼくはこの本にとても感動しました。キラキラした夢のような世界でした」
 わたしも子供のころケストナーが大好きだったのに、これだけは読んでなかった。ファンタジーでも冒険ものでもなさそうなので心惹かれなかったのかな。

『フランバーズ屋敷の人びと 1 愛の旅だち』 K・M・ペイトン 作
「やっと飛びはじめた頃の飛行機の原始的なエンジンや機体について、こんなにありありと書かれた本はありません」

『真夜中のパーティー』 フィリッパ・ピアス 作
「短い作品の中に世界が描かれていました。文学ってすごいなあ」

あと『まぼろしの白馬』、『ハンス・ブリンカー』、『ネギをうえた人』(「あなたはネギを好きですか?ぼくは大好きです」という推薦文が不思議)など。
他にもディテールに魅力があるという「魔使い」シリーズ(東京創元社)とか、恥ずかしくて隠れて読んだという『バラとゆびわ』『愛の妖精』とか。


宮崎駿監督の次の映画についても言及されていて興味引かれた。関東大震災が出てくるそうだ。
次回作についてネットで検索してみると、Cut 誌 2011年 09月号 のインタビューなどから、まんが「風立ちぬ」が原作になるのではないかと予想されているらしい。ゼロ戦開者設計者の堀越二郎の若き日を描いた宮崎駿によるマンガ。
http://blogs.dion.ne.jp/tapas06/archives/10385191.html
http://plaza.chu.jp/diary/2011/09/ghibli-kaze-tathinu.html

私自身は、Cut 誌のインタビューを読んで、震電の開発者の話ではないかと推測していた。

昭和57年の講演で宮崎さんはこう語っている。
「日本でも終戦まぎわに、一人の青年に戦闘機の製作が負かされたことがあります。26歳の青年です。
彼が作った飛行機は「震電」というんですが、とんだのは2〜3回だけ。」
「工場は小さかったけれど、ものすごく斬新な飛行機だったんですよ。」
「その青年の夢と希望があふれている飛行機で、設計思想そのものがすばらしいんです。」
「戦争のおかげで、26歳の青年が飛行機の設計主任者になれて、同時に戦争のために、その人の希望はすべて失われていったんです。」
映画 風の谷のナウシカ GUIDEBOOKより)

でも終戦まぎわに26才だと関東大震災のときは幼児か。父親の体験と重ねたいのだとすると小さすぎるかな。
『本へのとびら』のインタビューにも堀辰雄への言及があったし、やっぱり「風立ちぬ」かもしれない。

題材もだけど、絵柄がどうなるかの方が気になる。正直言ってジブリアニメの絵にはほとんど魅力を感じられなくなっている。
たとえば「最貧前線」(『宮崎駿の雑想ノート』所収)のような絵柄で日本を描いてくれるなら是非見たいと思う。でもどうせまたいつもの絵なんだろうな。
せめて人物の目を小さく描いてほしい。『チポリーノの冒険』を思い出して。

いずれにしても、ファンタジーは当面作れない、と明言してるし、派手な戦闘シーンなど描きそうもないし、宮崎駿の本領は発揮されないんじゃないかって気がする。
宮崎監督の次回作にわくわくできなくなってしまった自分が悲しい。

あと宮崎美少女も出ないといいな。
『秘密の花園』の挿絵について「意地悪そうな顔色の悪い少女の絵を描いたら、読者は読むのをやめちゃうでしょう。」って、そんなことないですよ、宮崎さん。
やっぱり宮崎さんにとっては美少女かどうかがとても重要なのかな、と、美少女だったことのない私は寂しく思うのだった。


リンク
BS日テレ「ジブリの本棚から 宮崎駿が選んだ一冊」という番組で、毎週一冊紹介している。



これは宮崎駿とは関係ないけど、挿絵から岩波文庫を読む楽しい本。

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2011年11月03日

『ミッション:8ミニッツ』 ダンカン・ジョーンズ監督

『ミッション: 8ミニッツ』
 原題 Source Code
 監督:ダンカン・ジョーンズ
 2011年/アメリカ映画
 出演 ジェイク・ギレンホール、ミシェル・モナハン、ヴェラ・ファーミガ、ジェフリー・ライト 他


点数:84点(100点が最高)


これは見事。
列車の爆弾テロを防ごうとする米軍大尉の活躍を描くSFサスペンス。
ごくシンプルな設定ながら、ハラハラできるし、親子の情愛とか、人情の機微の描き方もうまい。

SFとしてもおもしろいけど、普通にサスペンス映画として大いに楽しめる。
小振りだけど、無駄なく緊密にまとまった質の高い映画だった。
人の記憶について考えさせるような問いかけも持っている。

『月に囚われた男』が評判となったダンカン・ジョーンズ監督の第2作。『月に囚われた男』はまだ見てないけど、期待の新鋭だ。


『ミッション:8ミニッツ』って邦題は印象に残りにくいと思う。
アクション物で似たような題のものがいくらでもあるような気がする。
印象に残ってないから具体例は挙げられないけど。
原題は『ソース・コード/ Source Code』だから印象に残らない程度は同じくらいだけど、それなら原題にあわせた方が良いんじゃないかなあ。


以下、ネタバレ気味の感想。

正直いって、設定が今ひとつ理解できなかった。特に最後。

まあ量子力学の世界なんてどうせ考えてもわからないんだけど。
実験の責任者でさえわかってないんだから仕方ないよね。

爆発前の8分間を何度も繰り返すわけだけど、これはいくつもの可能世界を行ったり来たりしているってことなんだろうか。
だとすると、ハッピーエンド風になってるけど、一つの救われた世界の背後に、無数の救われなかった世界が存在するわけか。
グレッグ・イーガンの『宇宙消失』(創元SF文庫)みたいだな。
(突然あれだが、グレッグ・イーガンこそ当代最高のSF作家である、という皆さんの意見に私も賛成だ)

まてよ、シュレージンガーの猫の例えでいうと、観測者が観測するまで、猫が生きているか死んでいるかは確定できないんだっけ。
この映画でいうと、最後のミッションの時はすでにテロ事件自体は解決してるから、ラトリッジ博士ら実験者は観測してない。てことは映画『ミッション:8ミニッツ』を見てる観客が観測者ってことか。
でも観測者が観測したときに波動関数が収縮するとは限らないらしい。
つまり私が見た『ミッション:8ミニッツ』はハッピーエンドだったけど、バッドエンドのもうひとつの『ミッション:8ミニッツ』を見た私もいて、しかも二人の私は重なって存在している・・・。
なんだそりゃ! ぜんぜんわからない。だから量子論ていやなんだ。


あと気になったんだけど、爆発で死んだ歴史教師ショーンの記憶からこの世界が再現されているんだとすると、ショーン自身の意識も残ってる可能性があるんじゃないだろうか。
意識はあるのに、スティーヴンス大尉に体を乗っ取られて、身動きとれない状態にあるのかもしれない。
だとしたらつらいだろうな。好きな女性(クリスティーナ)も乗っ取り野郎にとられちゃうんだから。
肉体の檻に閉じ込められたまま、自分の人生を傍観するしかないわけだ。

もしかしたら、ショーンの願望に基づいて再構成された世界だからこそ、クリスティーナとの仲がうまくいったのかな。
そういう形でショーンの意志を実現していけるならそれもいいかも。
外的世界も内的世界の反映であるとする唯心論的世界観が描かれているのか。


あと、最後にシカゴの広場で鏡のようなオブジェが出てきて、それが主人公にとって意味があるような台詞が入ったと思うけど、あれはどういう意味なんだろう。わからなかった。なにか見逃してたかな。


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2011年10月29日

『ランゴ』ゴア・ヴァービンスキー監督

『ランゴ』
ゴア・ヴァービンスキー監督
2011年 アメリカ映画


点数:80点


最近見た娯楽映画の中で一番おもしろかった。
(最近見たのは『猿の惑星:創世記』と『キャプテン・アメリカ』と・・・それくらいか。『ゴーストライター』はタイプが違うから比べにくい。そういえばポランスキー監督の名作『チャイナタウン』がこの『ランゴ』の元ネタの一つなのかな。あれも水の支配をめぐる話だったはず。ジョン・ヒューストンが亀町長に反映されてるような気がする。元ネタ探しはおもしろそうだけど、私にはそれを可能にするだけの蓄積がない。あとで検索して探そう。映画見てる途中でアッ、あれかな、と気づいたのあったけど、もうなんだったか忘れてる。括弧が長くなったな)

ゴア・ヴァービンスキー監督監督の映画の中でも見た中では一番良かった。別に好きな監督でもないけど、「ゴア・ヴァービンスキー」って名前が何かやってくれそうな感じがするので、つい気になって見てしまう。
ついでに言うと、ゴア・ヴィダールという作家も読んだことはないけど、名前からして何となく気になる作家だ。私はゴアに弱いのか。いや、ゴアだけならどうってことないけど、下の名前との組み合わせにきっと妙味があるんだろうな。ヴァ行かな。
 

で、『ランゴ』だけど、「ゴア・ヴァービンスキー監督がついにやってくれた」と言いたいほどおもしろかった。まあ監督というか、もちろん支えるスタッフの力が重要なんだと思うけど。


爬虫類など小動物が繰り広げるCGアニメーション版の西部劇。マカロニ風味満載。


お話は・・・

水槽の中で孤独に生きるカメレオン。ある日、自動車から振り落とされ、砂漠の真ん中に放り出される。沙漠にできた爬虫類たちの街に流れ着いた彼は、ランゴと名乗り、凄腕ガンマンの振りをして保安官に納まる。そして水をめぐる陰謀に巻き込まれていくのであった。

どっちかっていうと大人向けかな。ひねりの効いたストーリーとユーモア。
でも決闘に赴くところとか、ストレートにぐっと来た。
動物たちがいい。爬虫類とか、あんまり可愛くない沙漠の生き物たちのおかげで、映像的にもなかなかユニーク。
特にガラガラヘビがおもしろかった。

いきなり幻想的というか、形而上的っぽくなるところも良かった。何だかわからなかったけど。エル・トポ? とか思ったけどどうだろう。


関西弁の字幕はどうなのかなあ。方言を使うこと自体はいいんだけど、関西かなあ。
読みなれてないせいか、文字ではちょっと読みとりにくかった。


モーション・キャプチャーだかエモーション・キャプチャーだかのおかげか、実写とアニメーションの境界が狭くなってきているようだ。
良きことのような気がする。俺はこっち向きだったのか! と気づいて転向する人もでてくるかも。
予告編もそんな映画がほとんどだった。わりと楽しみ。


日本だと鈴木清順とか大林宣彦とかあったけど。あれは名前だけ?


posted by 読書家 at 22:39| Comment(0) | TrackBack(0) | 映画 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする