2012年05月20日

『鶏のプラム煮』 マルジャン・サトラピ 著



『鶏のプラム煮』 (ShoPro Books)
マルジャン・サトラピ (著), 渋谷豊 (翻訳)

2005年度アングレーム国際漫画祭最優秀作品賞受賞

最近は多くのBDが翻訳されるようになったけど、中でも好きなのがマルジャン・サトラピ。
この『鶏のプラム煮』もとてもおもしろい。

マルジャン・サトラピ自身の大おじさんが主人公のモデルになっているそうだ。
1958年のテヘランを主な舞台とした味わい深い物語。
ナーゼル・アリはタール(イランの伝統的弦楽器)の一流の奏者。だが愛用のタールを壊され、悲観した彼は自ら死を選ぶのだが・・・。

家族への幻滅、報われない愛、自死。と、かなり苦いお話だけど、ユーモア漂う簡潔なタッチで描かれるので、陰々滅々となることはない。むしろ楽しく読み進めるうちに、人生の哀感が心にしんと染みいってくる。

ストーリーテリングのうまさが光る。

市井のイラン人の生活や心情に触れられるのも魅力。
今回は政治や社会について多く語られるわけじゃないけど、革命前の、かなり西洋化されたテヘランの風景は今のイラン映画では描けないだろうし、貴重な機会じゃないかと思う。
ナーゼル・アリの母親がダルウィーシュ(スーフィズムの修道僧)だったりとか、イランの精神世界の一端を垣間見せてもくれる。

サトラピ自身とヴァンサン・パロノーの手で実写映画化もされた。日本では『チキンとプラム』の題で東京国際映画祭で上映されたそうだけど、未見。アニメーション版の『ペルセポリス』は素晴らしかったし、これも見たい。
ただタールではなくヴァイオリンに変更されてるそうだ。タールの名手をキャスティングできなかったのかな(と思ったけど、下記のインタビューによるとちゃんと意図があるそうだ)。

映画『ペルセポリス』の感想
ぷらねた 〜未公開映画を観るブログ〜 で、映画「チキンとプラム」(という邦題だったらしい)についてのサトラピのインタビューを訳してくれている。
ぷらねたさんの「チキンとプラム」感想はこちら→ http://planeta-cinema.at.webry.info/201111/article_3.html すばらしい映画だそうだ。




映画版『ペルセポリス』

「Tar solo」とかで検索するとタールの独奏が聴けるようだ。これとか。
http://www.youtube.com/watch?v=X4aQg8oXuiI

私は「世界民族音楽大集成:29:イランの音楽」というCD(廃盤?)でダリウシュ・タラーイDariush Talai氏のタール独奏を聴きながら読んだ。タールは2曲だけだけど。
映像 http://www.youtube.com/watch?v=zLjdJ890ezE
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2012年05月04日

『ピアシング I』 劉健(リュウ・ジェン)監督

『ピアシング I』
2010年アジア太平洋映画大賞 最優秀長編アニメ賞受賞

BSスカパー!「シネマアワー THE PRIZE 〜世界の映画祭から」 で放送されたのを見た。
http://www.bs-sptv.com/program/page/000379.html
珍しい映画を見せてくれるいい番組だ。無料放送のときにしか見ないのが申し訳ないけど。

中国初のインディペンデント長編アニメーションらしい。

題名だけど、中国語の原題が「刺痛我」だから「ピアシング アイ」じゃないかと思ったんだけど、番組のナレーションでは「ピアシング ワン」と言っていた。三部作の一作目だから「ワン」ということのようだ。
英語のサイトでは Piercing 1 となってた。
http://www.cartoonbrew.com/feature-film/is-piercing-1-the-first-indie-animated-feature-from-china.html

2006年に南京で実際に起きた事件「彭宇(ポン・ユー)事件」を基にしている。
劉健監督が3年がかりでほぼ独力で作り上げたという。

ストーリー
青年チャンは、大学を出た後、都会の製靴工場で働いていたが、金融危機をきっかけに失業、田舎に帰る決心をした。
そんな時、交通事故で老婆が怪我をしたところに遭遇する。
チャンは老婆を病院に運び、自ら治療費まで立て替えて助けたにもかかわらず、「そんな善い人がいるはずない」と疑われてしまう。犯人扱いされたあげく警官に暴行を受けた彼は・・・。

実際の事件を元にしたのはこのあたりまでか。(実際の彭宇事件についてはこことかに http://kinbricksnow.com/archives/51768499.html
後半は、ちょっと『ロック、ストック&トゥー・スモーキング・バレルズ』みたいな感じの、金をめぐるサスペンス映画になる。

感想
特に前半が良かった。都会で職もなく閉塞状況にある若者のやるせなさが良く出ている。
後半は、正直言って、そんな偶然ありか? という感じで、いまいちだった。
前半とうまく融合しているとは思えなかった。
冒頭に「すべての偶然は必然である」みたいな警句が掲げられるので、この映画のテーマなんだろうけど。
もっと中国の現実をリアルに描いた方が面白かったと思う。
でも突然噴出する暴力の描写とかうまいし、最初から犯罪映画をつくるなら作れる人だと思う。
未来の話になるという『ピアシングII』にも期待したい。

いずれにしても、あまり構えないで娯楽作品として見て十分面白いので、多くの人に見てほしい。
絵も魅力的で、背景美術とか美しい。あえて日本のマンガにたとえると松本大洋見たいな感じかな。違うかな。まあ下のリンク先にトレーラーがあるので見てください。

でもこんな絵柄でもちゃんと長編アニメが作れるんだよなあ。日本のアニメももっと多様になってほしいな。

劉健(リュウ・ジェン)監督インタビュー
http://www.webdice.jp/dice/detail/3397/

http://kes.blog.ocn.ne.jp/blog/2011/12/2009_03a8.html
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2012年05月03日

『タイタンの逆襲』ジョナサン・リーベスマン監督

2012年 アメリカ映画
監督 ジョナサン・リーベスマン
出演 サム・ワーシントン レイフ・ファインズ リーアム・ニーソン

おもしろかった! まさにど迫力。
前作『タイタンの戦い』もおもしろかったけど、アクションシーンの迫力では上回る。
アクション以外のことは何も期待してなかったけど、別に悪くなかった。
ストーリーはとても単純なので、闘いに集中できてより盛り上がったと思う。余計なことをしないのがいい。

『タイタンの戦い』は意外と元の神話に則っていたけど、今回は大幅に外れてる(と思う、私が知らないだけでなければ)。
神々の黄昏とかでてきて北欧神話っぽい。
神々の危機を息子の半神が救う、という展開は「ニーベルングの指輪」っぽい。ゼウスとペルセウスはヴォータンとジークムントみたいな感じがした。

父親がゼウスってどんな気持ちなのかな。プレッシャーきつそう。うちは平凡な家庭でよかったかも。などという雑念はキメラの怒濤の攻撃の前に焼き尽くされ、あとは一直線に神々や英雄、怪物入り乱れての戦いに引き込まれていった。

脚本は、ゼウス教徒が見たら怒らないかな、と心配になるほど大胆なアレンジがされてるけど、映画の中では十分納得できる展開。
でも、キュクロプスがポセイドンを畏れ敬まっていたり、アレスとヘパイストスが対立したり、結構神話を踏まえてるらしいところもあって、ギリシア神話好きとしてはそういう楽しさもあった。

軍神アレスが活躍するのも良かった。神話では、私が読んだ限りでは影が薄くて、アフロディーテに間男して夫のヘパイストスに懲らしめられる話くらいしか印象に残ってない(この屈辱を根に持ってたのかな)。
映画では戦いの神にふさわしい強さを見せてくれる。でも特徴に乏しいからただの強い人、みたいだけど。

Joachim Wtewael.jpgJoachim Wtewael
アレスはアフロディーテとの浮気の最中、ヘパイストスの網に捕らえられ、みんなの笑いものになるのであった。

ポセイドンの息子アゲノルについてはなにも知らなかった。憎まれ屋の航海士ってことなので、ひょっとしてオデュッセウスのことかな、とか思って見てたけど、関係なかったようだ。エウロペの父親らしい。あれ、時系列的に・・・いや神話に時系列を気にしちゃいけないか。

欲を言うと、もっと魔物がどんどん出てきても良かったと思う。
でも満足。

余談だけど、この前見た『ジョン・カーター』のデジャー・ソリスといい、今回のアンドロメダといい、女をやたら強くするのはどうなんだろう。
いかにも現代の観客に配慮してる感じでがして、古代や別世界の雰囲気を壊しかねない気がする。
強くなければ生き延びる資格がない、と言わんばかりで、か弱い私にはちょっと違和感がある。
まあアンドロメダとか付け足しに過ぎないので、どうでもいいと言えばどうでもいい。


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2012年04月21日

『ジョン・カーター』アンドリュー・スタントン監督


今さら感たっぷりの企画だけど、監督が「ウォーリー」のアンドリュー・スタントンってことなので信頼していた。
予想どおりの良いできばえ。12歳くらいで見ていたらずいぶん興奮しただろう。仮定法過去完了で言ってしまったけど、今の私だって十分に楽しめた。

あんまり現代化せず、古典的な悠長な感じを保ってるのがいい感じだ。火星に飛ぶまでの手続きもちゃんと踏んでるし。
重力の違いのせいで強くなるって、ドラえもんとかでたくさんみたな。最新技術でついに映像化! 実写で見るとなんか、クスクスって感じ。楽しい。
でもジョン・カーターってもともと強い人なんだね。のび太っぽさはない。

この手の映画のクリーチャー関係ってデザイン的に感心したことってあまりないけど、これはとても良かった。特にウーラとかサーク族の赤ちゃんとか最高だった。
乗り物類も、センスがとてもいい。

ただストーリー的にいまいち乗れないのは、敵方に問題あるせいかな。悪役は操り人間に過ぎないし、操ってる奴は何が目的なんだか、強いんだか弱いんだか、よくわからない。

アメリカ本国では興行的に大失敗してるらしい。
SF冒険映画が作られにくくなるかもしれないなあ。ジャック・ヴァンスとか期待してたんだけど。まあ才能と思い入れのない人たちが作ると大味な映画ができやすいジャンルでもあるから、期待はしない方がいいか。
アンドリュー・スタントン監督の評価は下がらないんじゃないかな。下がらないでほしい。ニール・ブロムカンプやダンカン・ジョーンズと並ぶくらい期待してる監督なんだ。

原作は昔読みかけたけど、面白くなくて途中でやめちゃった。武部本一郎画伯の絵が惜しくて捨てずに持っているはずだが、さっき本棚を探そうとしたら雪崩が起きたのであきらめた。どうしよう、この山・・・。



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2012年03月03日

『闇の国々』ブノワ・ペータース作 フランソワ・スクイテン画





著者 ブノワ・ペータース
画 フランソワ・スクイテン
訳 古永真一/原正人


メビウス、エンキ・ビラルと並ぶBD三巨匠の一人と称されるスクイテン、初の日本語訳単行本。

え、スクイテンて誰? と思う人もいるかもしれないが、すなわちシュイッテンのことだ。
François Schuitenは今までシュイッテンと表記されることが多かったけど、スクイテンと発音するのが正しいようだ。ただしシュイッテンが誤りというわけでもないのかな。訳者あとがきによると両方とも使われるらしくて、よくわからない。
(両者が平行して存在しているなんて、このマンガの内容を象徴してるが如くだなあ)

なおBD(ベーデー)とはバンド・デシネの略でフランス語圏のマンガのこと。念のため。

白黒(一部カラー)で4千円もするので、買うべきか迷っていたのだけど、結局買って良かった。傑作。400ページもあって密度も高い。質量ともに充実。
昼飯を10日ほど抜いたと思えばたいして高くない。
SF評論家の大森望氏も推薦してる。
http://blog.livedoor.jp/ten_years_after/archives/52825108.html
本の雑誌3月号では五つ星をつけて絶賛(「過去の新刊めったくたガイド」にリンク張ろうと思ったらとっくになくなってた)。

3巨匠のなかでも、日本語に訳された意義がもっとも深いと思う。つまりブノワ・ペータースによるシナリオがとても良いのだ。
バンド・デシネって絵がきれいなのはわかるけどストーリーはどうなの? と思ってる人は、まずこれを読むといいんじゃなかろうか。
もっとも、カフカとかボルヘスとかに比べられるような、一筋縄ではいかない内容なので、読者を選ぶかもしれない。(私は選ばれましたけどね、と暗に言っている。)

SFというよりは奇想小説の系譜に連なるのかな。我々の世界と平行して存在するらしい「闇の国々」を舞台とした連作。
「闇の国々」シリーズは外伝を除いて現在12巻出版されているそうだが、そのうち次の3巻を選んで収録している。

「狂騒のユルビカンド」
(1985年アングレーム国際漫画祭最優秀作品賞受賞)
 整然とした都市ユルビカンドに出現した謎の立方体。それは毎日成長を続け、都市に異常な混乱をもたらす。
 主人公のユーゲン・ロビックは、シンメトリーや秩序に取り憑かれたユルバテクト(都市計画建築家)。立方体の謎を解き秩序を保とうとするが・・・・
 全体主義建築、未来派、アール・デコなどが融合した都市の描写が面白い。

「塔」
 ブリューゲルが描くバベルの塔を思わせる巨大な塔。修復士のジョヴァンニ・バッティスタは、塔の謎を探ろうと、塔縦断の旅に出る。
 ジョヴァンニ・バッティスタは、オーソン・ウェルズ演じるファルスタッフがモデルだそうだ。名前は版画家のジョヴァンニ・バッティスタ・ピラネージからとっている。

「傾いた少女」
 ある日突然身体が斜めに傾いてしまった少女メリーの孤独な遍歴。
 並行して描かれるのは謎の天体現象。ジュール・ヴェルヌが描きそうな世界だが、ジュール・ヴェルヌ本人も登場。


どれもとても凝っている。
架空の論文や書物をでっち上げたり、写真マンガを使って「こっちの世界」との緊張関係を表したり。
実在の人物も時に絡み合い、多層的な世界を築いている。

3つとも良いけど、私は特に「塔」が好き。世界そのもののような巨大な塔の描写がすばらしい。そしてあまりに奇妙な結末。

スクイテンの絵はピラネージなどの影響があるようだ。銅版画的な緻密な筆致で壮大な都市群を描き出す。
ピラネージのほかにもダ・ヴィンチ、未来派、ジュール・ヴェルヌなど、過去に夢想された都市や機械、異様な建築群が見事に再現される。

基本は白黒だけど、時々色が入る。
特に「塔」におけるカラーは鮮烈だ。
色づけもすべて自分でやるそうだ。繊細な色使いが美事。

次は是非カラーの作品を訳していただきたい。


http://wakuteka.jp/archives/5313
訳者のお一人、原正人さんのコラム「なぜ私はヨーロッパマンガを愛するようになったか」で、「闇の国々」のシリーズが紹介されている。

http://fr-chocolat.com/podcast-chocolat/708-278-bd-et-ecole-criolo
ポッドキャストのフランス語学習番組「Chocolat!」で、
もう一人の訳者古永真一さんが、「闇の国々」について語っている。

BDfile
ShoProがBDのブログを立ち上げた。BDの翻訳もいよいよ軌道に乗ってきたかな。

piranesi1.jpgpiranesi2.jpg
これはピラネージの版画。さすがにスクイテンもここまで緻密ではないか。
http://sala17.wordpress.com/2010/03/10/giovanni-battista-piranesi-1720-1778/

http://www.nmwa.go.jp/jp/index.html
上野の国立西洋美術館で3月6日からピラネージ「牢獄」展をやるそうだ。版画素描展示室だから小規模だと思うけど。
同時にやる「ユベール・ロベール−時間の庭」展の方も、ちょっと『闇の国々』の世界を思い出させる。

posted by 読書家 at 16:36| Comment(0) | TrackBack(0) | 漫画、画集など | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2012年02月23日

『オーダーメイド殺人クラブ』 辻村深月 著



『オーダーメイド殺人クラブ』 辻村深月 著


あらすじ

中二女子の小林アンは、容姿も良く運動もでき、クラスのヒエラルヒー上位に位置するいわゆるリア充(現実が充実している)女子。しかし心には闇を抱えていた。
ある日、クラスの昆虫系(作者の造語らしい。何考えてるかわからないおたく系)男子の一人、徳川を河原で見かける。どうやら彼は小動物を殺して楽しんでいるらしい。
小林アンは徳川に頼む、「私を殺してくれない?」と。
二人は秘密の会合を重ね、オーダーメイドの殺人計画を練るのだった・・・。

感想

とてもおもしろかった。
思春期の痛みが胸に迫ってくるような青春小説だ。
ミステリとはいいにくいけど一応殺人が絡むのでこのカテゴリに入れた。

いわば身分違いの二人の微妙な関係性や、心の変化が巧みに描かれる。
中学生の嫌な人間関係がとてもリアルだ。すごく切実だけど傍から見ればばかばかしくもあるあれやこれや。その痛さ恥ずかしさ。
自分がその教室にいたらこうするのに、とか空想したりもするけど、実際は何もできないに違いない。あの時も何もできなかったように。

思い出したくもない自分の中学時代の思い出まで呼び起こされてしまった。体が熱くなったり冷たくなったり、変な汗かいたりしながら読んだ。

今の中学生が読んでもリアルに感じるんじゃないかと思うけどどうだろう。
殺したいとか殺されたいとかに共感する子はさすがに少ないだろうけど、特別な存在になりたいとあこがれつつも、現実には学校内のヒエラルヒーの中ではみ出さないよう汲々としていて、何か異常な事態が出来しない限りこの閉塞状況からは抜け出せない、と感じている子は多いと思う。
この本がそうした子の救いになるかどうかはわからないけど、少なくとも状況を客観視するための助けにはなるんじゃないだろうか。


『少女コレクション序説』 (中公文庫) 澁澤 龍彦 著

小林アンにとっての福音となるこの一冊。
私も中学生くらいに読んだんだったかな。私の場合、むかむかして途中で放り出したんだけど。
何が気に入らなかったのかは思い出せない。気取りやがって、と反発したのかな。私の少女趣味とはまったく違ってたので、頭でこしらえたニセモノのような気がしたのかもしれない。
(いや、エロい本を期待したら案外エロくなかったのでがっかりしたのかも・・・確かに私はそんな奴だった気がする。)
後に澁澤氏の小説読み出してからはファンになった。


『高丘親王航海記』 (文春文庫) 澁澤 龍彦 著
 私はこれが一番好き。すばらしい。



『ハンス・ベルメール写真集』
 ハンス・ベルメールの球体関節人形は私もすごいと思ったけど、澁澤龍彦氏が推す四谷シモンとか画家の金子國義って何が良いのかよくわからないな。

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2012年02月18日

『ペントハウス』ブレット・ラトナー監督

2011年 アメリカ映画
監督:ブレット・ラトナー
出演:
ベン・スティラー (Josh Kovacs)
エディ・マーフィ (Slide)
ケイシー・アフレック (Charlie)
アラン・アルダ (Arthur Shaw)
マシュー・ブロデリック (Mr. Fitzhugh)


全く予備知識が無かったけど、どこかで誰かがほめてたような気がして飛び込みで見てみた。
こういう見方は久しぶりだ。まあシネコンのタダ券があったからだけど。
かなりの拾い物だった。

悪徳投資家に金を巻き上げられた労働者たちが、金と誇りを取り返すべく、一世一代の犯罪計画を立てる。
その顛末やいかに。というお話。

見てる間は楽しいし、後味も良い。
コンゲームとしてはちょっと緩いと思うけど、コメディ・タッチなので気にならない。
この前テレビで見た『ゲーム』(デヴィッド・フィンチャー監督)が、なんか意味ありげでかっこつけてるだけに、「そりゃないだろ!」と突っ込み入れたくなるのとは対照的だ。
(この2作が似てるってわけじゃなくて、たまたま最近見たので比べただけだけど。)

地道に働く人たちへの敬意があって気持ちよい。
悪い金持ちが敵役というのも貧者心をくすぐる。
今のアメリカの気分(の一部)を代表しているのだろう。

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2012年01月09日

『エデナの世界』メビウス著



『エデナの世界』原タイトル:Le Monde d'Edena
 メビウス(Moebius) 著 原正人 訳 TOブックス刊行

アンカル以後のメビウスの代表作。
近ごろ外国のマンガが続々と訳されていて、貧乏人には嬉し痒しの日々が続いている。
『エデナの世界』は、メビウスのファンなら麦を食ってでも買っておきたい長編代表作だ。
フランス原書では本編5巻にスピンオフ1巻の計6巻で出版されたものを、一冊にまとめて邦訳された。

二人の宇宙飛行士が不思議な惑星エデナで冒険する、というSF。
シナリオもメビウス本人が担当している。めずらしく一貫したストーリーがあるので入りやすい。

とは言え、やはり主役は絵だろう。
巻ごとにかなり絵柄が変わるので、多彩な画法が楽しめる。
とりわけ第3巻の色使いが絶妙なのだが、なんでこれだけ違うのかな。メビウス本人が彩色したってことなのかもしれない。
巻末で二人の漫画家(浦沢直樹氏と夏目房之介氏)が対談しているのだけど、礼賛するばかりであまり具体的なことを語ってくれないのが残念。技法とか、プロらしい意見を聞きたかった。

残念ついでにもう一つ言うと、フランス原書では各巻の巻末に解説が付いているそうだから、それも訳してほしかった。本編を読めばわかる、というマンガでもないので、解読の手がかりがもっとほしい。
また『エデナの世界』の世界を描いた一枚絵ももっとあるはずなので、大判で収録してほしかった。

ストーリー自体は特に難解というほどでもなく、読み進めるのに障害はないのだけど、何を言いたいのかよくわからなかった。
深い意味があるのかもしれないし、単なる思いつきで書いたのかもしれない。麻薬はもうやめてたんだっけ。
やはり絵を楽しめばいいマンガなのだろうか。結論は控えておく。
内面世界と外的世界が入れ子構造のようになっていて、互いに影響し合っていたりする。
アルザックにも似たようなエピソードがあったし、メビウスにとって重要なテーマなのかもしれない。

ユーロマンガ Vol.3に「エデナの世界」スピンオフ作品が掲載されてた。
http://www.euromanga.jp/title/reparations/697

メビウス(ジャン・ジロー)のオフィシャルサイト


ユリイカ誌のメビウス特集号
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2012年01月04日

『リヴァイアサン クジラと蒸気機関』スコット・ウエスターフェルド 著



『リヴァイアサン クジラと蒸気機関』
 スコット・ウエスターフェルド 著
 小林美幸 翻訳
 早川書房(新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)


2010年ローカス賞ヤングアダルト部門受賞
2010年オーリアリス賞ヤングアダルト部門受賞

これは楽しい。
「テメレア戦記」や『移動都市』に近い味わいの冒険ファンタジーだけど、その中で最もおもしろかった(シリーズ全巻は読んでないけど)。

改変世界における架空の第一次世界大戦を描く冒険スチームパンク。三部作の第一作。

ダーウィンが19世紀半ばにDNAを発見し、遺伝子操作が可能になった世界。

物語の舞台は20世紀初頭のヨーロッパ。イギリスをはじめとするダーウィニズムを信奉する国々では、遺伝子操作により新種生物を次々と作り出し、乗り物や兵器として使用していた。
一方、ドイツなど遺伝子操作を拒否する国々はクランカーと呼ばれ、機械工学を発達させて対抗し、歩行戦闘機械などが作られていた。
1914年、オーストリア・ハンガリー帝国の大公夫妻がサラエヴォで暗殺されたことをきっかけに、両陣営の間に戦争が勃発する。
大公夫妻の息子アレクサンダー公子は、皇位継承権をめぐる陰謀から命を狙われ、数名の家臣と共にウォーカーに乗り込んで逃亡する。
イギリスでは、空を飛ぶことにあこがれる少女リデンが、男の振りをして士官候補生になり、クジラを改造した巨大飛行獣リヴァイアサンに乗り込む。
やがて遭遇する二人。
だが拡大する戦火は否応なしにに彼らを飲み込んでいくのであった。


これほど「絵になる」小説も珍しいだろう。
体内で水素を生成して空に浮かぶ巨大クジラ。伝言トカゲ、 六脚に二つ鼻の水素探知獣など、奇怪で魅惑的な新種動物が跋扈する世界。それがパワードスーツ的な戦闘機械と絡み合うのだから。ツェッペリン号など実在の乗り物も登場。楽しさ満点。

キース・トンプソン氏による挿絵の魅力も大きい。
http://www.keiththompsonart.com/gallery.html
ホームページでたくさん見ることができる。特にカラーイラストが良い。

http://www.youtube.com/watch?v=PYiw5vkQFPw&feature=youtube_gdata_player
ユーチューブなどで、キース・トンプソンの絵を元にしたトレーラーを見ることができる。
これがもっと本格的にアニメーション化されたら見てみたいな。
最近のCGアニメーションは本物っぽい映像を作ることにはずいぶん発達してきてるけど、手書きのタッチまで再現できるようになれば無敵だろう。

なお邦訳版の表紙絵はPablo Uchida氏が描いてる。これはこれで、懐かしい少年SFみたいな感じで好き。Uchida氏のホームページで、制作過程を見せてくれている。
明朗なヤングアダルトSFの雰囲気を伝えているのはむしろこっちの方かも。キース・トンプソン氏の方はねちっこい感じ。

設定倒れではなく、ストーリーやキャラクターも魅力十分。
少年と少女の成長と友情がきっちり描かれる(と思われる。一作目なのでまだ片鱗だが)。
男装の少女デリンは内心の声までべらんめえ調の男言葉なので、今で言う性同一性障害か?とも思ったけど、そういうわけでもなさそうだ。
宮崎アニメにも通じるまっとうなヤングアダルト向けの冒険物語だ。宮崎さんが宮崎アニメらしい宮崎アニメを作ってくれなくなった今、寂しさをまぎらすのにもいい。

三部作の後半の方が評判がよいようだ。
日本も参戦するらしい。日英同盟があるからダーウィニズム側かな。明治維新以降、欧米列強に追いつくため遺伝子操作技術を学んできたのだろう。
楽しみなシリーズだ。

新☆ハヤカワ・SF・シリーズのページ
スコット・ウエスターフェルドのホームページ
posted by 読書家 at 22:31| Comment(0) | TrackBack(0) | SF,ファンタジーなど | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2011年12月30日

『忘れられた花園』ケイト・モートン 著



『忘れられた花園』
ケイト・モートン 著, 青木純子 訳
東京創元社 刊


点数:82点(100点が最高)

昨日ミステリチャンネルの闘うベストテンをみたら、これが一位に選ばれていた。
ミステリのつもりで読むと物足りなく感じると思うけど、ゴシック・ロマン風の魅力的な小説だ。

『秘密の花園』とかブロンテ姉妹とか『レベッカ』とか、私好みの小説が引き合いに出されて紹介されてるので、興味を引かれて読んでみた。(レベッカは映画で見ただけで読んでないけど)


20世紀初め、イギリスからオーストラリアの港に到着した船に、小さな女の子が乗っていた。彼女は記憶を無くし、誰の子ともわからなかった。オーストラリアで養子として育った彼女は、やがて、自らの出生の謎を探るべくイギリスに渡る。手がかりは、唯一の持ち物であったスーツケースに入っていた子供向けの本。
彼女はやがて古い貴族の家を探し当てるが、その家には忌まわしい秘密があるらしかった・・・。

100年余りにわたる歴史が、三人の女主人公を通して重層的に同時進行で描かれる。

ミステリとして読むといまいちかな。主要な謎は、途中であらかた想像が付く。
古いイギリス小説の雰囲気を楽しむべき小説だと思う。ディケンズ風のところもあるし。

私はイライザやローザを描く100年前のパートが特に面白かった。というか、そこだけでよかったんじゃないかと思う。

正直言って、こんなに重層的な語りの構造にする必要があるのか疑問に思った。
ネルと孫のカサンドラは、同じようにオーストラリアからイギリスに渡って調査するわけだけど、似たような目的で同じような人たちと出会うので、しばしば混同してしまった。
現代を20世紀初頭に結びつけるために無理したんじゃないかって感じがする。謎を解明する役が一人いれば十分じゃないのかな。

あと残念に思ったのは、一番読みたかったイライザとローザの子供時代がほとんど描かれないこと。二人が友情を深めていくところが無いと、後半も生きないような気がするんだけど。


とても楽しく読んだのだけど、訳者あとがきでも書かれているように、あくまで軽いエンタテイメントだと思う。
もちろん、それがいけないわけじゃ全然ないけど、過剰な期待を抱かせるような紹介のされ方もしてるので、がっかりしないよう注意した方がよいかな、と、ちょっとけちをつけてみました。

『秘密の花園』とかブロンテ姉妹とか『レベッカ』とかを未読の人は、まずはそれを読みましょう。
私もレベッカを読まなくちゃ。

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